Part4


 一方、【月光の森】の奥地。

 【聖騎士】の試験に使われる広場、【月上間げつじょうま】で……深夜に襲撃され、気を失ったアルベールが意識を取り戻した。


「……う……」


 全身の鈍い痛みと、口内に広がる鉄の味。

 必死に瞼を開けようと力を込めたが、開いたのは右目だけ。左目は、やけに腫れていて開かなかった。


「ここ……は」


 片方だけのせいか、やけに視界がぼやける。

 身体は動かず、一瞬だけ入れた両手の力が封じられていると気付いた。感覚から、縛られているのだと。


「――ア、アルベール!!」


「その声は……メ、メイリン……なのか?」


 左側から聞こえる愛しい人の声。

 心配そうに、悲しそうに叫ぶ声が耳に入った。

 そして愛しい人の気配と同時に、昨夜に感じた嫌な気配も。


「やぁやぁアルベール。ようやくお目覚めかい?随分と余裕を見せるじゃないかぁ……この俺様を待たせ、挙句の果てには大切な恋人が隣りにいるのに気が付かない。命が助かっているというのに、これじゃああの【召喚士】が来る前に、貴様の無能っぷりのせいで折角のシナリオが台無しだよ……」


 その声は頭上から振り下ろされた。

 痛みに耐え、アルベールは必死に上を向く。

 自分が括り付けられている大きな岩の上に鎮座する、自分を襲ったイグナリオ・オズエスの主――コランディル・ミッシェイラ。


「コランディル・ミッシェイラ……やはり、お前が……」


「ああ??なんだよぉ!!その目はぁぁぁ!!」


 グワッと、コランディルは瞳孔を開き声を荒げた。

 そして勢いよく大岩から飛び跳ねると、そのまま……アルベールの左膝を踏みつけた。


 ――ガスン!――


「がっ……!!ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「アルベールっっ!や、やめてくださいっ!!」


 関節に対し逆方向への負荷で、アルベールは悲鳴を上げる。

 メイリンはさらなる追撃をさせまいと、アルベールの身体に覆い被さった。

 しかしコランディルは血走った目でアルベールを見下し、メイリンの腕を剥ぎ取るように掴み、そのまま投げる。


「――きゃっ……ぁぁっ!」


 ドシャリと身体から投げ落ち、メイリンは泥に塗れた。

 そしてその先には、コランディルの二人の部下が立っている。


「……えっ?」


「残念だったなぁ、女」


「ごめんなさいねぇ。これもお楽しみの一部なのよっ」


「はっ――メ、メイリンっっ!!止めろお前等ぁぁっ!!」


 両脇を抱えられ、メイリンは強制的に立たされる。

 アルベールは痛みを無視し叫ぶも、視界を塞ぐようにコランディルが動く。


「――キヒッ……ヒヒヒッ。なぁアルベールゥゥ……貴様はこの平民のクソ女が愛おしいのだろう?愛しているのだよなぁ?」


 光る眼光は、まるで動物のよう。

 その声音は心の奥底に入り込むような、恐怖を帯びていた……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る