Part3


 驚異的な広範囲感知魔法を目にし、エドガーは感嘆する。

 しかしその場所を思えばこそ、そうこうしてもいられなかった。


「ここから30カルメルド(km)の南西……そこに無数の反応が」


「そこに、小さな反応が無数――つまり」


 アルメリアは腕を組み、考えるようにしている。

 そこにエドガーが、答えを導いたようにパチンッ――と指先を鳴らした。


「【王都リドチュア】から更に南西だね。移動距離や時間を考えれば、答えは一つ……【月光の森】だよ、二人共」


「【月光の森】ですか……わたくしたち、【聖騎士】が昇格試験を受けるの会場ではないですか。まさか、そんな場所に?」


 その場所は、【王都リドチュア】から南西に進んだ場所にある。

 代々、【聖騎士】になるための試験が行われる会場であり、【聖騎士】や【従騎士】は、騎士学生の頃から利用することもある見慣れた場所だ。


「ああ。アルベールは深夜に連れ去られ、今朝方にはメイリンさんも。相手があの貴族の人だけじゃなく、昨日もいた部下の二人も協力しているのなら、時間もかからず移動できるはず……それに、きっと空からだろうからね」


聖王国民あたしたちは、上空には警戒しないから……」


 エミリアは、エドガーに言われた考察に納得する。

 他国との争いもない、魔物もいない、外敵となる凶暴な動物がいるわけでもない国が、空に警戒をするはずがなかった。


「そうと判明すれば話は早いわね、私も早くこの世界に馴染みたいし、早々に向かいましょう。キミの馬車で行くのかしら?」


「いえ、僕の家には馬車がないので……」


 ローザの言葉に、エドガーは少し眉を下げてアルメリアを見た。


わたくしの家の馬車を使います。フィルウェイン」


 移動はロヴァルト家の馬車。


「ここから30カルメルド(km)。馬車での移動でも1時間以上はかかる……その合間に話をしましょう、ローザさん」


「そうね」


 本当ならば、新しくこの世界に訪れてくれた最重要人物。

 エドガーは内心思う。こんな早急な行動をさせるのは烏滸おこがましいというものだが、それでも自分の我儘と身勝手で呼び出した責任、それだけは必ず取ると。


 そうして、ロヴァルト家の馬車にはエドガー、ローザ、エミリアとアルメリアが乗り込んだ。御者は【従魔】フィルウェイン。

 残りのナスタージャは、ロヴァルト家に残るもう一人の【従魔】、アリカに報告。

 【福音のマリス】では通常営業。三体の使い魔がせっせと働いてくれている。だからこそ、安心してアルベールとメイリンの救出にあたれるのだ。


「よし。まずはアルベールとメイリンさんの安全の確認……大丈夫だとは思うけど、万が一に備えて武器も用意したし、ローザさんの協力も得られた。あの貴族……コランディル・ミッシェイラが【召喚士】を目的とした行いなら、二人はまず無事なはずだ。だけど、完全に無傷とは限らない……アルベールなら抵抗するだろうし、メイリンだってアルベールのためなら顧みないはず……急ぐに越したことはない。フィルウェイン、頼むよっ」


「お任せを、エドガー様」


 エドガーは御者をするフィルウェインに合図を送り、そうして馬車は一路……【月光の森】を目指す。

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