Part2


 エドガーの態度に、ロザリーム……ローザは少し含んだ笑みを見せる。

 しかし状況を見て、追及はしないようだ。


「ふふっ、まぁいいけど。じゃあ行きましょうか……広場、でいいのよね?」


「はい、あちらです」


 ローザは特に気にせず、案内をするエドガーの背を追った。

 そして徒歩で数分。【福音のマリス】から南方に進んだ位置に、平原エリアに到着する。


「――ここなら、今の時間は通行する人が極端に少ないので、魔法を使っても平気です。召喚したばかりで申し訳ないですが、頼みます……ローザさん」


「任せなさい。私だって、キミの願いを受け入れて呼ばれることを許可したのだから……【召喚士】は、黙って召喚した存在わたしを導けば良いのよ」


 そう断言し、ローザは首元のチョーカーに触れる。

 加工されて本来のサイズでは無くなっているが、その赤い宝石は明らかにルビー。

 【消えない種火の紅玉インフェルノルビー】――消えることのない、地獄の炎を内包したと言われる、おとぎ話に登場する【魔具】だ。


 ――ゴゥッ――


「わっ!……ほ、炎がっ」


「炎の、輪?それも、大きい」


「これは感知の力――【センシング・ブレイズ】。このリングの起伏する炎が、探そうとした対象。ほら見なさい、私の正面に大きな炎の球体が」


 姉妹が驚く。エドガーは魅入るように真剣だ。

 ローザが【消えない種火の紅玉インフェルノルビー】に触れた瞬間、一気に炎が噴出し、その炎はローザを囲む輪のように周囲を回る。

 すると……その炎の数カ所が、プクリと膨れ上がった。


「――って、キミの家の地下にどれだけの“石”があるのよ!!」


「それはカウントしないで大丈夫ですので。どうですか?炎の動きを見た限り……その反応は」


 ローザの胸元付近が、どうやら現在地に近い位置らしい。


「えと……ローザの周辺で大きくなってる炎の場所が、“石”の在処ってことでいいの?」


「正面の大きな火球が現在地なのでしたら、そちらの小さな火球が数個見えるのは……南西でしょうか?」


 姉妹が確認するようにローザの両隣で口を開くと、ローザは答える。


「ええ。そうね、私の左肩の位置……ここからだと、15ケルダ。おっと、こちらの世界だと……えーと、30カルメルド(km)くらいね」


「……凄いな、本当に」

(自分の周囲30カルメルド(km)以上の広範囲探索……二人は気付いてないけど、途轍もないことなんだよ?)


 エドガーは、その広範囲の感知魔法の脅威に気付いている。

 誰にも気付かれず、30カルメルド(km)以上の範囲を正確に判別する力……しかも簡単にやってのけているローザを見れば、更に広範囲の探索も可能かもしれない。感知する対象を絞っているという制限はあるが、侵入者や逃亡者を事前に察知できるのは圧倒的な脅威だ。

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