第11話『大切な人を救うために』全9Part

Part1


 【福音のマリス】の外に出たエドガーたち。

 エドガーは召喚した女性……ロザリーム・シャル・ブラストリアと話をしている。

 エミリアとアルメリアは、【従魔】のメイドであるフィルウェイン、ナスタージャと話をしていた。これから、エドガーたちは【七つ木の森】のエリアの一つ、平原エリアへ向かう手筈だ。距離的にも近く、探索の魔法を発動するための移動である。


「――じゃあ、頼んだわよっ!ナスタージャっ!」


「お任せを!」


 エミリアが、ナスタージャに何かを頼んだらしい。

 ロザリームと話していたエドガーが、少し気にしたようにそちらを見ると、アルメリアが会話に入る。


「アリカに連絡を頼んだのです。彼女には屋敷に残ってもらっていましたので」


「……なるほど、確かにその方がいい。あと、こっちも段取りができたよ。直ぐにでも移動して、探索の魔法を使ってもらうことになった」


「キミが言うなら、この場でも構わないけれど」


 ロザリームは含み笑う。

 片方の口端をクッと上げて、エドガーを見下ろすように。

 頭半個分はあろうその身長差が、少年との差を感じさせている。

 そして長い前髪の隙間から覗く空色の瞳は、自信に満ちたものだった。


「いえ、流石に魔法の初歩も知らないような国柄、余計な誤解は避けたい……それに、ウチの宿は他国からもお客様が訪れますので、見られたくないんですよ」


「そ、そういう理由だったのですね……」


 アルメリアはてっきり、余裕を持ち過ぎているのかと思っていた。

 余裕というか、油断に近いそれだろう。しかしそれは杞憂だった。エドガーは最初から、アルベールとメイリンのために行動していた。勿論、異世界召喚を試みることができたのは偶然の一致だが、それでも結果的に、その方法が最善だった。


「さぁ、【輝石】の在処ありかを見つけて、速攻でアルベールたちを探すよ。お願いしますね、ロザリームさん」


わたくしからも、お願いいたします、ロザリーム様」


「あ、あたしも!よろしくお願いしますっ!」


 ててて……と駆けてきたエミリアが、勢いのままに頭を下げる。

 そんな三人に、真紅のドレスを身に纏うロザリームは。


「――ローザでいいわ。三人共、私のことはローザと呼びなさい。様付けもさん付けも要らないから」


 ロザリーム……ローザは、三人に愛称で呼ぶ許可を出した。

 信頼や友情の証でもある愛称。高貴な身であろうその気高き姿は、積極的にこの世界に関わろうとしていた。

 召喚の際に様々な情報を得たローザは、既にこの世界の一部と言える。

 特に、召喚主であるエドガー・レオマリスのことは……まるで半身なのではと思わせるほどの情報量だった。


「うん、ローザ!」


「はい、では……お願いします、ローザ」


 姉妹は笑顔で応えた。

 しかしエドガーは。


「わかりました、ローザ……さん」


 エドガーだけは、ローザをさん付けした。

 少しぎこちない、距離を取ったかのような態度だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る