Part9


 エドガーが展開した魔法陣から取り出したのは、剣と槍。

 それはどう見ても、剣を使うアルメリアと、槍を使うエミリアのための召喚だった。一瞬過ぎて、召喚がどうと言われても姉妹には違和感だろうが。


「よっ……と」


 ――カシャンカシャン――


「エド、ねぇそれって!!」


「もしかして、わたくしたちの?」


 二人も、用意された物が自分の得物だと直ぐに理解した。

 エドガーはこの短期間、しかも会話をしながら、簡易ながら召喚を行ったのだ。

 手慣れた動作で、姉妹にも何が起きたかわからないような動きだった。


「ああ。もしかしたら、戦闘も考えられるからね。僕は戦えない、というか戦力になれないから……念の為でもある。まぁ、これは魔力だけで召喚した、名前もない武器だけど。だけど、昔召喚したお古よりは強いと思うよ」


 槍と剣を二人に渡すと、女性も立ち上がり召喚された武器を見る。


「いえ、見事だわ。魔力だけを触媒にしたにしては……整い過ぎではないかしら?キミ、余程の想像力でしょう」


 剣だけを見ても、剣身に柄、鞘までセットだ。

 微妙に装飾までされており、下手な店売りより高額に思える。


「知識だけはあるからね」


「あ、ありがと。エド」


 エドガーは本や物語の知識だけで、ここまで精巧な武具を召喚したというのだ。

 しかし召喚できたということは、その品が別の世界で存在している証拠。

 想像から生み出されつつも、確かに存在する本物だ。


「感謝しますエド、これでわたくしも……」


 正直、準備という準備をする必要はエドガーにはない。

 魔力さえあれば、極端な話、召喚でどうとでもなるからだ。

 金槌のような日用品から食料、果ては使い魔……そして異世界人まで、そうして彼――【召喚士】エドガー・レオマリスは、あらゆるものを呼び出し生きているのだ。


「それじゃあ外に行きましょうか。ここでは、魔法も使えないでしょう?」


「ま、魔法っ!」


 少年のように、エドガーの黒い瞳が輝く。

 実に五年振りとなる、正真正銘、おとぎ話に登場する存在を目の当たりにできるのだ。


「あ、あの!すみません……」


「ん?なにかしら」


 アルメリアが、出鼻を挫くように申し訳無さそうに手を上げた。

 女性は多少首を傾げたが、次のアルメリアの言葉を聞いて納得する。


「えっと……その、お名前を」


「「「あっ」」」


 この世界に招かれた人物、【剣と魔法の世界】から召喚された、彼女の名は。


「私は――ロザリーム・シャル・ブラストリア。【聖石】、【消えない種火の紅玉インフェルノルビー】の所持者で、炎を操る――魔人よ」


 ニヤリと笑みを浮かべるその美しい表情には、矜持と希望が満ちていた。

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