Part8


 アルメリアの言葉に、女性は肩を竦めて言う。


「そうね。これでは私が空気の読めない女になってしまうわ……呼ばれたばかりで、そんな扱いは嫌だもの。召喚されるとき……キミたちの寸前の出来事が脳内に映し出されたのよ。そのときに彼の思いと、状況も把握したのよ」


「そんなことが、あるのですか?」


 女性の言葉に、エミリアとアルメリアはエドガーを見た。

 エドガーはゆっくりと、真剣な顔で頷く。


「うん、どうやらね」


「不思議なものよ。今会ったばかりなのに、手に取るように思いが伝わる……彼がどんな境遇で過ごし、どんな扱いをされているかを、私は……自分のように腹立たしく思っているの」


 それは姉妹も同じだろう。

 しかし立場が違う。国に仕える騎士と幼馴染の板挟みは、辛いはずだ。


「そして……キミたちの置かれている状況も、把握だけはしてる」


 召喚の際、エドガーの血と魔力を通じて情報が書き換えられる。

 召喚者は元の世界と同じ背格好をしているが、構成される情報が、この世界の人間として再構成されるのだ。しかしそれは情報だけ。言語や文字、世界共通の常識程度。

 本来持っている知識や能力はそのままであり、その証拠が……首元に輝く【輝石】なのだ。そして何より、不都合が起きないように意識に叩き込まれるのが、召喚主であるエドガーの情報だ。


「キミの幼馴染が、悪漢に拉致された。二人はその妹君……そして、宿の経営を手伝ってくれている従業員の一人も、かどわかされている。私を召喚した理由は、その悪漢たちの居場所の特定のため……でしょう?」


「……は、はい」


「その通り、です」


 女性は赤いドレスを身に纏っている。

 髪も整えられ、どこからどう見ても気品溢れるその姿は、やはり何処ぞの王族のように見えるだろう。

 しかしどこか威圧感も感じるが、やはり何か別格な存在感を醸し出していると、姉妹も感じていた。


「なら、早速始めましょうか。ねぇキミ、“これ”の魔力解放……普通に使っていいのよね?」


 女性はエドガーに対し、首の赤い宝石を指差し確認する。


「ああ、勿論。目的は……この場所を含む、王都近辺の【輝石】の反応の有無。特に大きな反応は無視していい。この地下だから。【小魔石の欠片デコイ】のような、小さな存在の反応が好ましいかな」


 エドガーは考える間もなく許諾。

 続いて条件を述べ、せっせと右手を動かし何かをしていた。


「えっと、エド?」


「いったい、なにを……」


 よく見ると、エドガーのちまちまとする動きの先、そこには小さな魔法陣が展開しており、そこから出現したのは……なんと槍と剣だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る