Part7


 異世界から召喚された、赤い髪の女性。

 まるで今の現状を把握しているかのような対応に、別世界からの召喚を簡単に受け入れているような様に、エドガーはともかく、ロヴァルトの姉妹は疑いの眼差しを向けているようにも見えた。


 地下から上がってくる面々。

 先頭は【従魔】フィルウェイン、続いてエドガー、召喚者の女性、そして姉妹二人。客人である女性をエスコートするように、エドガーは手を差し伸べていた。女性はその手をそっと取り、高貴な女性を体現しているようだった。


「……あれ?あたしたちも伯爵令嬢なんだけど?」


「誰に言っているのです、エミリア」


 壁に向かって話すエミリアに、アルメリアは呆れたように言った。

 そして地下から戻ると、真っ先に向かうのは【福音のマリス】の一階。

 エントランスのフロント奥にある、スタッフルームだ。


「……フィルウェイン、【従魔】全体に報告を。それから、さっきの報告のことだけど。メイリンさんは家にはいない……出かけている可能性を除けば、やはりアルベールと一緒の可能性が高くなった。いざとなれば招集・・する……準備を怠らないように」


「はい、エドガー様!」


 フィルウェインは一礼すると奥へ消えていく。

 地下から上がる際、ホリィの代わりの報告を聞いたエドガーは、いざという場合、彼女たち【従魔】を呼ぶというのだ。


「……今の、人じゃないわね。魔物……??」


 去っていくフィルウェインの背を見て、女性が言う。

 エドガーは感心したように。


「ええ。彼女は僕の使い魔……【従魔】という存在で、他にも十一体存在します」


「なるほど使い魔ね、魔物の気配がしたから……一瞬、斬りそうになったわ」


 鋭い目つきでエドガーを見る。

 口元が笑っている……どうやら冗談のようだ。

 出会ったばかりでそんな冗談を、と言いたそうなエミリアが。


「ね、ねぇエド。言っちゃ何だけど……こんなことしてる暇、あるの?」


 スタッフルームに入り、エドガーと女性の呑気にも取れる会話を聞いて、エミリアが言った。口撃こそしないものの、アルメリアも同意のようだった。


「平気だ……って言うのも無責任だね、ごめん二人共。でも安心して、こうして余裕を持っているのも、アルベールやメイリンさんが無事だって確証があるからだ」


 それは本当のことだった。


「……そこの二人、大丈夫よ。私は理解しているわ」


 女性もエドガーの言葉に頷いた。

 しかし受け入れ過ぎている感覚を怪しく感じ、アルメリアも口を開く。


「で、ですが……話も聞かずに。それに、わたくしたちはまだ、本当に何も知らないのです。貴女が本当に力を貸してくれるのか、それすらわからない状況で、焦らずにはいられません。無知なわたくしたちでは、魔力や【輝石】のことを言われても、情けないですが未だにイマイチなんです……ですが、エドのことは信じられます。エドが召喚した貴女のことも、信じたいんですっ」


「アルメリア……」


「姉さん……」


 アルメリアは胸に手を当て拳を握り、自分の不甲斐なさを認めた。

 本来なら、この国の主戦力……【聖騎士】である自分が主導で動くべき案件だ。

 しかし聖王国の人間に共通して言える……魔力や魔物、そして【魔具】に対する知識の無さと信望の欠落。それ等が不足し、幼馴染に頼らざるを得なかった事態に、アルメリアは不甲斐なさと供に、自責の念を抱いていたのだ。

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