Part6


 エドガーの言葉を制すようにし、女性は自分が話すと言いたそうにする。

 エドガーは少し焦り気味に手を差し向け、「ど、どうぞ」と。

 そうして女性は、その口を開く。


「……うん。キミの名前は知ってる。この場所に呼ばれるとき、不思議な感覚が身体にあったから。言葉も理解できるし、キミが私を必要とした理由も……」


(やっぱり、そうなのか。五年前と同じ、異世界から召喚される人物は、この世界に適応されて召喚されるんだ……言葉や文字の知識や、僕の詳細、そして召喚された目的も)


 女性はスゥ……と息を吸う。


「私は、本来あのとき死ぬはずだった……それを助けられたのね、キミに」


 女性は全裸に恥ずかしがることもなく、周囲を見渡しながら更に一歩前に出た。

 それは美貌への自信を裏付ける、彼女の矜持でもあった。

 そしてその瞬間、ようやくエドガーは彼女が裸であることに気付く。

 全裸に、首元にはチョーカー……それだけだ。

 チョーカーには、加工された【消えない種火の紅玉インフェルノルビー】が煌めき、赤い髪に高貴な血、そして紅玉と……触媒に応じたのだと理解した。


「あっ!ご、ごめん。配慮が足りなかった!」


 理解した途端、エドガーは年相応な少年のように顔を赤らめ、予め用意しておいたタオルを渡す。


「ありがとう」


 近付くと、その美貌がより際立つ。

 まるで彫刻のようだと、エドガーは思った。

 バサリ――とタオルを羽織るも、どうやら短かったらしく、下半身が出たままだった。


「――ぶっ!!ご、ごめんっ!!フィ、フィルウェインっ!救護求むーー!」


 見てはならない物を目の当たりにして、顔を真っ赤にしたエドガーは、背後に感じた【従魔】の気配に助けを求めた。

 そのらしくない言葉に驚きつつも、フィルウェインは姉妹を引き連れてそちらへ向かう。


「は、はいっ。ただいまお持ち致します!」


 フィルウェインは、【召喚の間】の壁際にある棚からシーツを持って走る。

 その後ろから、ロヴァルトの姉妹が。


「――うわ、おっぱいデッッッカ!!」

(全裸にチョーカーって……しかもそのチョーカーに着いてる“石”、あたしがプレゼントしたルビー……だよね?なんだか、無性に腹が立つんだけどっ)


 エミリア・ロヴァルト、第一声がこれである。


「こ、こらエミリアっ!!失礼でしょうっ!」


 姉にペシン――と頭をはたかれ、「あ痛っ!」とエミリア。

 視界に入る赤髪の少女をジィ……と見ると、何故かエミリアは強気に。


「ふ、ふんっ。貴女が異世界から召喚された人ね……エドは貴女を必要にしてるみたいだけど、あたしはまだ信じ――」


 ――ドスッ!――


「はぅあっ!!……ぉぉ……ね、姉さん……」


 突如襲ってきた脇腹の痛みに、エミリアは顔を青くさせて姉を見た。

 肘を入れたアルメリアは、笑顔の裏に盛大な怒りを滲ませた顔で妹を睨む。

 その様子を、召喚された女性はジトーッと見ていたが。


「なにこれ」


「す、すみません。僕の幼馴染で、貴女を必要とした理由の一端でもあります……ま、まずはその……服を見繕いますので」


 エドガーは視線を逸らしたまま、その女神のような裸体を見ないようにするが、女性は一切恥ずかしがることなく言い放つ。


「気にしないで、見られて恥ずかしい身体ではないわ」


 エドガーとエミリアは揃って「「こっちが気にする!」」と口にする。

 女性は「そう……なら」と、首元のチョーカーに触れた。

 エドガーだけが反応する。「……魔力っ」と。


 ――ゴゥッ――


「これならいいでしょう?」


 一瞬で、女性は真紅のドレスを身に纏った。

 チョーカーに着けられた【消えない種火の紅玉インフェルノルビー】から発生した炎が変形し、その身体を着飾ったのだ。


「じゃあ……話を聞きましょうか」


 赤い長髪をバッ――と払い、自信に溢れるその表情で、異世界人の彼女はエドガーたちを見据えたのだった。

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