Part3


 どう見ても、その折れた剣は使い物にならない。

 二人はそう思うが、エドガーはその折れた剣を見て感嘆としている。


「これは、【折れた剣身】。そのままだけど、剣帝オルザレナって知ってる?」


「勿論です。【剣帝オルザレナの英雄譚】は、幼少のときから何度も読み込みましたから!」


「うん、その人の剣」


「……え?」


 エドガーの淡々とした受け答えに、アルメリアの動きがピタリと停止した。

 エミリアは、まるで時間が停止したような姉を見て言う。


「あー……姉さん、【剣帝オルザレナの英雄譚】に憧れて剣士になったから。おーい、戻ってこーい、姉さーーん?」


 エミリアはアルメリアの眼前で手を振る。しかし瞬きすらしない姉。


 エドガーの持つ【折れた剣身】は、鞘にも入れられずに半分以上が錆びている。

 そもそもおとぎ話の英雄譚、されどこの状況、もはやそれが事実なのだと、エドガーが今まで嘘を言っていなかったことを考えれば、理解ができたのだ。


「本物かどうかは、僕にもわからないけどね、確かめる方法はないから。けど……僕は本物だって思っているよ。アレもコレも、祖父や曽祖父、更に昔の【召喚士】たちが長い歴史をかけて収集した【魔具】だから、ね」


「……はっ!そ、そうですよね……ではやはり、あの英雄譚は史実……!そう思えばこそ、理解もできますし受け入れることもできます!」


「あ、戻ってきた」


「さ、これを……要石となった【消えない種火の紅玉インフェルノルビー】の正面に。にしても、懐かしいな……覚えているものだ、彼女の教えも」


 エドガーは折れた剣先を、魔法陣に突き立てるように刺す。

 折れた剣は床には刺さらず、魔法陣の魔力で空間に留められている。

 しかし一切ブレず、【聖石】と共鳴するように魔力を放ち始める。


「二人共、少し離れて」


「う、うん」

「わかりました」


 エドガーは手で制すように合図し、二人は後方へ下る。

 振動を始めた【聖石】と【折れた剣身】、魔法陣の文字に吸収されるように重なった【赤帝馬の鬣】は、魔力に反応し炎をまとって燃え始めた。

 それ等を繋ぐのは、魔法陣に振りかけられ、空気中に漂う【プリンセスブラッド】だ。


「よしっ、昔と同じだ。やはり適応者・・・はいるっ!!」


 それは、異世界で【消えない種火の紅玉インフェルノルビー】を使用する……赤いたてがみのような髪を靡かせ、姫たる血統を持ち、剣帝のように剣を扱う……異世界の英雄。すべてが噛み合い、呼ばれるべくして召喚される――【召喚士】、エドガー・レオマリスの契約者だ。

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