Part2


 エドガーの嬉笑は続く。


「あははははははっ!!ほ、箒か、確かに見えなくはないね!でも、これは馬のたてがみだよ、二人とも……動物の毛だねっ」


「「た、鬣???」」


 姉妹揃って身を乗り出し、その赤い毛束をまじまじと見る。

 瞳を見開いてジィ……と見るアルメリア。目を細めて怪しそうに見るエミリア。


「そ。この【魔具】の名前は――【赤帝馬の鬣】。はるか昔、西の地にて世界最速の速さを誇った動物だよ」


「……何故そのような馬の鬣が、ここに」


「アルメリア。そこに疑問を持ったら、今後毎回そういう言い回しをしなくちゃならないよ?」


 アルメリアの言葉は至極真っ当な疑問ではあるが、歴代【召喚士】の遺産とも呼べる数々の【魔具】は、近くの倉庫に山程あるのだ。

 それも、この【赤帝馬の鬣】のようなレアな存在が。レアと言っても、二人には本当にガラクタのようなものだが……。


「そ、そうですね……今は考えないようにしておきます」


 視線をエドガーの持つ【魔具】から逸らすように、アルメリア納得した。


「なんだかわからないけど、エドが凄いのはわかったよ!」


 エミリアは満面の笑みだった。

 理解できないことを、考えないようにする笑顔である。


「まぁいいけどね。じゃあ、次は……っと」


 エドガーは、手に持った毛束をバラ撒くように魔法陣に投げた。

 その毛束……【赤帝馬の鬣】は、魔法陣の文字の上に重なるよう、吸い込まれるように重なった。


「わっ!赤い毛が勝手に動いたよっ!?」


「もしかして、それが魔力……?」


「やっぱり説明するより、見せた方が早いみたいだ」


 エドガーは乾いた笑みを零す。

 続いてエドガーが手に取ったのは、小さな小瓶だった。

 血のような赤い液体が入った、薬品のような物だ。


「これは【プリンセスブラッド】。古き時代の王女の血……という文言の、まぁ薬品だね。使用したことはないから、どんな効能があるかはわからないけど」


「それで薬品って言うのもどうなの?」


 エミリアが目を細めて言う。

 その知見は、歴代の【召喚士】から受け継いだ知識だけの賜物。

 残された数々の【魔具】は、何百年も昔の遺産ばかり……これが薬品だとしても、流石に劣化が酷いはずだが。


「この地下は、少し時間の流れが緩いんだよ」


 小瓶の蓋を取り外すと、花の匂いの香水のような香りが溢れる。

 エドガーはそれを魔法陣の上に振り掛ける。キラキラと魔法陣の光に反射して、まるで空気中の魔力に反応しているかのようにエドガーを照らす。


「時間が、ですか……」


「もしかして年、取らないのかなぁ。いいなぁ」


「ははっ!そう言う訳じゃないよっ、単にこの空間だけね。人間が居ても普通と変わらないけど……【魔具】だけが特別なんだ」


 エドガーは姉妹の新鮮なリアクションを楽しみつつ、最後の【魔具】を手に取る。

 それは、誰どう見ても……ガラクタ――折れた剣だった。

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