Part9


 【魔石】には悪魔が、【聖石】には天使の力が封じられている。

 その中でも……最上級に珍しく、エドガーが欲していたような“石”には……。


「――多くの【魔石】には、悪魔が封じられているんだ」


「「悪魔……」」


 流石にもう、おとぎ話の……とは言わなくなったね。

 実際メジュアが魔物の姿で召喚され、そして人間の姿に戻るのを見たはずだし、信じてくれるのは嬉しいよ。


「うん。犯人はその力で、空を飛ぶ能力を得た……この国には空を移動する人間がいるとは思わないだろうからね。そもそも上空に警戒心はなかったんだよ」


「なるほど。納得です、エド」


「……ますます卑怯じゃん」


 エミリアは頬を膨らませた。

 確かに、空から奇襲されたらこの国では対応できないか。弓使いは存在するけど、魔力を用いられたら戦いにすらならないはず。

 まぁ……それも作戦の内、と言っても、意味はないんだろうね。


「彼の目的が僕なら、僕が行くまではアルベールも無事のはず。メイリンさんが巻き込まれているとしても同じだよ。ただ問題は……」


「その場所、ですね?」


 そう。僕が目的のくせに、その場所の知らせも、戦いの布告も無しなんだから、その整合性の無さには呆れるよ。まずは僕に宣戦布告するだろうに、普通。


「ああ。だけど、その安定性の無さが……【小魔石の欠片デコイ】の特有だ。だからこそ状況判断がしやすく、犯人の特定も簡単なんだよ」


 おそらく、もう【魔石】に魅入られてるはず。

 冷静ではないから、犯行声明すらしないんだ。僕が気付かなかったら、一生待っているつもりだったのかな。


「へぇ〜……」


 エミリアは感嘆、と言うよりも、理解が追いついていない感じの声を出した。

 アルメリアは少し口惜しそうに僕を見ている。多分、そこまでできるのに……どうして今まで行動していなかったのか、という感じだろう。


「さ、奥へ。問題の一つ、コランディル・ミッシェイラが何処に居るか、それを探るために……異世界に協力要請を出そうじゃないかっ」


 実は、アルベールの安全には確証がある。

 もしも既に害されているなら、宿の入口にでも……その首が晒されているだろうからね。そうやって僕を挑発する手もあるのに、どうして行動しないのか。されても困るけどさ。それに僕への宣戦布告も、戦うとしても場所すら特定させないような行動……不安定過ぎる。


 【魔石】が使用されている以上、必ず国内に反応はある。

 しかし行動するにも、せめて場所の特定は必須。

 そこで好都合……【消えない種火の紅玉インフェルノルビー】には、超感知能力がある。まるで、僕に早く異世界召喚をしろと急かしているような展開だ。

 だからこそ、慎重かつ大胆に……異世界から誰かを召喚するという覚悟と、その呼出した人物の人生を、一生背負う責任が伴うんだ。


 残る異世界召喚の条件の一つは、まさにそれだ。

 異世界から召喚される人物は、共通して……元の世界から不必要とされた人物なのだから。

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