Part7


 異世界から何か召喚をするには、一定の条件が必要だ。

 まず第一に、【輝石】……高品質な【聖石】か【魔石】、どちらかが必須。

 エミリアが僕にプレゼントしてくれた【消えない種火の紅玉インフェルノルビー】のような、異質な存在感を放つ“石”だね。

 そして【魔具】。これは、対象の“石”に見合い、相性の良い【魔具】を選別するのがコツだ。


「……こ、ここって地下への入口だったんだね」


「そうですね。なんだか、ひんやりとしていますが」


 姉妹二人が僕の背後にピタッとくっつき、長階段を見下ろして言う。

 ここは宿に併設された、レオマリス家の家屋だ。大きな扉は二人も見たことはあっただろうけど、そう言えば地下に下りたことはなかったか。アルベールはあったはずだけど。


「地下には、【従魔】たちの部屋もあるんだよ。それと、【召喚の間】。【召喚士】が召喚をするための、広い空間の広間さ……そのままだけど」


 そこでしか行えないのが、まさに異世界召喚。

 通常の召喚は、魔力と道具さえあればどこでも行えるが、大規模な魔法陣を必要とするこの召喚は、この地下の広間……【召喚の間】でしか不可能なんだ。


「あの子たち、地下に住んでたんだ……」


「そう言えば疑問に思いませんでしたが、彼女たち全員が?」


「そうだね。ここにも空き部屋はあるんだけど、部屋数が足りなくて。相部屋になるよって言ったら……」


 思い出す五年前。

 当時は、異世界から来た三人と、【従魔】たち十二体。

 期間は数ヶ月と短かったけど、それでもあの時間は大切な思い出だ。


「あー、一人部屋が良いって?」


「そ」


 それぞれ別々の世界から召喚された彼女たちは、実は最初は仲良くなかった。

 ましてや魔物だしね。異世界召喚で呼ばれた三人がいなくなった後から、【従魔】たちは絆を深めたと言ってもいいと思う。


「道理で……」


 きっと、ロヴァルト家でも三体の【従魔】が部屋割りで揉めたのだろう。

 アルメリアの納得の仕方が、それを物語っている気がしたよ。


「さ、下りるよ二人共。地下に着いたら真っ直ぐに進んで、右手に見える大扉が……【召喚の間】だから。他の部屋は気にしないで」


 僕たち三人は階段を下り始める。

 手にはランタン。しかし中身は火種ではなく、小さな“石”だ。

 これは【魔具】の【輝石】の一種で、【明光石】という明かりを放つ【魔具】だ。


「うわぁ……くっら」


「そうですね。エド、壁や天井に灯を置くつもりはないのですか?」


 階段を下り始めても、姉妹は僕にピタリとくっついて離れてくれない。

 昔から暗がりが怖い姉妹ではあったが、今はまるで昔に戻ったかのような雰囲気だよ。なんだか、とても懐かしいね……。

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