Part6


 コランディルの目的は僕、【召喚士】だと思う。

 昨日のアレが効いたのか、余程腹を立てられたみたいだ……。


「だろうね。昨日のことがそうとう頭にキタんだろう……プライドが高いのは貴族の特有か……おっと、ごめん」


 二人も貴族だった。他意はないつもりだけど。


「いえ……ですが、ではどうして兄さんを」


「普通はそのままエドを狙うよね。ましてや、“石”で力を得たんでしょ?理由は、兄さんにも恨みがあるから、とか?」


 いや、それだけじゃない。

 確かにそれもあるんだろう。アルベールに対する言葉も、そしてメイリンさんへの態度も全部含めて、積もりに積もった怨嗟を【魔石】で増幅され、そして一番恥をかかせた僕への怒りが、そうさせたんだ。


「僕を、【召喚士】をおびき出すための餌……なんだろうね、アルベールもメイリンさんも。正直、僕が彼と戦うのは理由がない……だけど、幼馴染であるアルベールや、従業員のメイリンさんが関わってくれば別だ」


「そんなの卑怯じゃないっ」


「そうですね、貴族としても……ありえませんっ」


 姉妹二人は憤りを見せる。

 自分の兄が不遇扱いの少年を誘き出すための餌だと言われれば、それはそうなるか。しかし、【魔石】を手に入れて力を得て……それをどうして、こんな単純な個人的復讐のために使う。


 考えていると、踊り場の下のエントランスに人影。

 あれは、羊の【従魔】ホリィだ。行動は早い方が良い、頼んでおこう。


「――あ。ホリィっ!!」


「――っえ!!あ、エドガー様っ!?ど、どうされたんですかっ!?」


 ミルキーホワイトの白髪が左右に揺れた。

 一瞬、僕がどこか迷ったようだ……魔力反応でわかるだろうに、随分と人間社会に馴染んできてるね。


「忙しいところごめん。念の為、【サザーシャーク農園】に行ってメイリンさんの所在を確かめてくれないっ?居るか居ないかだけでいい、家族に迷惑はかけられないからね」


 本当に病欠なら、そのまま寝ていてくれれば良し。

 もしいなくても、用事で出かけている可能性は否定はできないからね。


「わ、わかりました!今直ぐにっ!そのめい、必ずやー!!」


 ホリィは敬礼するように指先を頭部に持っていき、言葉の通りに颯爽とエントランスから駆けて行った。


「し、仕事の合間で良かったんだけど……まぁいいか。メイリンさんがもし、普通に休んでるだけなら、取り越し苦労だし。さて、二人共」


 振り返って姉妹を見ると、何故か二人共緊張した面持ちで僕を見た。

 いやいや、そんな怖い顔していたかなぁ。


「僕たちも行動を。同一犯なら、アルベールもメイリンさんも同じ場所だ……だけど、場所はわからない。方法も今は・・ない」


「今は……?」


 そう。だからこそ、それを可能にするのさ。


「ああ。召喚をする……エミリアから貰ったあの【聖石】を用いて、異世界から……強力な助っ人を、ね」


 五年振りだけど、できるはずだ。

 それが可能なのは僕だけ、異世界召喚……身勝手で傲慢な呼び出し。それを受けてくれる、世界から排除される運命の人を。

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