Part5


 勘が鋭いというか、エミリアの直感は素直に凄いと思う。


「うん。そうだね……彼等の目的がアルベールだとしたら、きっと屋敷で殺害しているはずだよ。そうじゃなく攫った……連れて行ったということは。うん、やっぱりメイリンさんが休んでいるのも関わってそうだ」


「え!メイリンさんも、今日いないの!?」


「では、兄を攫った人物がメイリンさんも……」


 きっとそうだ。コランディルの目的は、おそらく僕。

 理由は単純、昨日痛い目を見せられた仕返しだろう。しかし……こんな短期間で?

 まだ一日も経過していないし、それに“石”はどこから。

 いや……もしかして、あの“石”も……彼女が。


「エミリア、昨日言っていたよね。あのルビーは、商人から買ったって」


 誕生日プレゼントに貰った、【消えない種火の紅玉インフェルノルビー】。

 贈ってくれたエミリアは、少し困った顔で答えてくれる。


「え?あーうん。確か、金策で今直ぐにでも売りたいから、金貨数枚で良いって言われて買ったんだよ……エドの趣味だし、なんだかその商人も可哀想だったから」


 普通に考えれば、絶対にありえない。

 エミリアの言う通り、金策で困り果てている商人がいてもおかしくはないが、その商人が聖王国人とは思えないんだよ。

 エミリアが商人から購入したのは本当なんだろうけど、それが聖王国の人間とは限らない。可能性として、やはり“石”に精通している国……他国の人間だ。

 丁度、西から何者かが来ているらしいと、聞いていたしね。


「その商人が、他の人間にも売っていたのなら……話は簡単だよ」


「――!なるほど、エミリアに“石”を売った商人は、それだけでは間に合わずに、追加で“石”をコランディル・ミッシェイラに売った。そう言いたいのですね、エドは」


 アルメリアが言う。他国なら国宝でもおかしくない【輝石】。それを安価で売るなんて、いくら資金不足の商人でもそうはしない。だからこそ、価値のわからない聖王国人なら、可能性としはてありえる。しかし、今回は違うと思う。

 昨日の時点で疑惑はあったのだが……貰えたことが嬉しすぎで失念していたんだよね、実は。


「うん。もし、その商人が聖王国人を騙った他国の人間なら……“石”のバラマキは戦争の火種にもなる。特に、あの貴族の人のような、悪意を持った人間なら尚更……ね。だけど単に貴族に売った……私怨を晴らすための人間に売ったのなら、対応は簡単……目的も、おそらく」


 もし戦争にでもなったら、間違いなく聖王国は終わる。

 “石”の知識を持つ他国の実力者たちに、あえなく敗北すること必須だ。

 僕もすべてを知っているわけではないけど、【輝石】の情報を忘却してしまったのは、この【リフベイン聖王国】だけらしいからね。そんな赤子と大人の喧嘩、どちらが勝つかは明白さ。


「“石”で、戦争……ですか。有り得る話なのでしょうね、エドの話を聞く限り。そして、コランディル・ミッシェイラの目的も、戦い……」


「じゃ、じゃあもしかして、兄さんが連れてかれたのって……エドを?」


 二人の言う通り。コランディル・ミッシェイラの目的は、僕……【召喚士】エドガー・レオマリスだ。僕を叩きのめす、もしくは害するためだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る