Part8


 場所は変わり、王都の某所。

 この王都に、というより、この【リフベイン聖王国】の町や村には、城壁や防壁といった防護柵が存在しない。動物避けの小さな柵がある程度だ。

 他国からの旅行客を検問する門や関所は存在するが、その程度。なにせ、この異世界には魔物が存在しないからだ。


「――いやー、呑気なものだね……この聖王国という凡愚の集まりでできた国は」


「その通りで」


 王都の物見やぐらの上に、黒いローブの人物が二人いた。

 櫓の高さは30メルド(m)。梯子で登り、精々二人が周囲を監視できる広さの物だ。普通、警備で周辺を監視する人間が国民を悪く言うことはないだろう。それも、人ではなく国を名指しで。

 黒いローブの人物二人は、どう見ても同じサイズの人物で、声も同じだった。性別も男か女かわからない。


 人物の一人は、黒いローブを目深に羽織り、ジトりと南西を見た。

 そこは森林。大きさはそれほどでもなく、禿山のように隙間が空き、そこが平地になっているのがよくわかる。


「どう転ぶかな」


「――なぁお前らー、そーろそろ良いんじゃねぇかー?」


「駄目だよ」


 フードの人物に、から声がかかった。

 勿論、後ろにいる黒いローブの人物ではない。しかし即答で否定したということは、声の持ち主が下にいることを知っているということ。

 だが高さは30メルド(m)。こんな小さな声が届くわけもなく、近くにいるという証拠でもあった。

 フードの人物の一人は、物見櫓から身を乗り出す。すると直ぐ真下に、細いロープが垂れ下がっていた。


「悪かったって……俺はつい、“石”を売るなら誰でも良いと思ってたんだよ。お前のためだろ?エリウス」


 垂れるロープの先には、同じ黒いローブの人物が括り付けられていた。

 逆さなのにも拘らず、器用に足元から頭まで隠れ、どんな人物かわからない。


「――おい、気軽に名を呼ぶな」


「……いいわよ、別に」


 背後にいた人物が、吊られた人物を咎めるように。

 しかし名を呼ばれた人物は、おもむろにフードを剥いだ。


 ――バサリ――


「!?……エ、エリウス様っ!!」


 後ろにいた人物も、流石に驚く。


「構わないわよ。もう任務の一つ・・は完遂したし、それに……この国に、私を知る人間なんて一人もいない。いたとしても、それは……あの城にだけでしょう」


 城というのは、聖王家の住まう居城。【リフベイン城】のことだ。


 エリウスと呼ばれた人物は、姿も声もフード着用時から全て変わった。

 これが本当の姿なのだろうと一目で理解できるような、そんな自信が見え隠れする姿。端正な顔立ちは、美人の部類に入る。声は鈴の音のように響き、風に靡く青い髪は……まるで清冽なる水のようだ。

 ローブで体型まではわからないが、予測される範囲だけでも、容姿端麗と言えるだろう。

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