Part7


 アルベールがイグナリオ・オズエスに、メイリンがマルス・ディプルに連れさられ。二人が主犯であるコランディルのいる場所に到達したのは、昼前だった。

 今頃、ロヴァルト家ではアルベールの捜索が行われ。【福音のマリス】ではエドガーが異世界召喚のために地下へ潜っている頃だろう。


「……ア、アルベール!!」


 その場所は奇しくも、【七つ木の森】に酷似していた。

 木漏れ日が青年の顔を照らし、その赤く腫れた頬を目立たせている。

 気を失っているアルベールに気付いたメイリンが、急いで駆け寄ろうとするが。


「――おっとっと、まだ駄目よお嬢さん。まずは……あの方に、ご挨拶でしょう?」


 ――シャラン――


「ひっ!……えっ?」


 マルスに斧槍で止められ、メイリンは怯えた声を上げた。

 怪我をしているアルベールのもとへ今直ぐにでも寄り添いたいが、それを阻まれる。そしてその視線の先には、アルベールが鎖で縛られた大岩。その大岩の上に偉そうに座る人物に向けられた。


「――ようやく来たかよ、クソ平民の女。折角、この俺様が招待してやったんだ、このパーティー、精々楽しませてくれるんだろうなぁ?」


「や、やっぱり、貴方が……アルベールをっ」


 アルベールを連れ去った主犯、【聖騎士】コランディル・ミッシェイラ。

 彼は大岩から跳躍し、アルベールの隣へと着地する。

 そしてメイリンの言葉が鼻に付いたのか、苛立ったような仕草で髪を掻き上げると。


「ああ?貴方……だぁ?誰に向かって口を聞いている……?勘違いするなよ女。俺様は、最強の【聖騎士】様だ……いや、違うな。そう、それすらを超越した!最高の存在……キヒッ……ヒヒヒヒヒっ!」


 コランディルは視点の合わない瞳で、アルベールとメイリンを交互に見ている。

 しかしどこか、まるで現実味のないような物を見据えているような、不思議な言動を繰り返していた。


「そう!!この俺様がトップに君臨するに相応しいんだ、俺様が最強の【聖騎士】になるんだよ!憎たらしいロヴァルトの兄妹も、偉そうな団長や腰巾着の副団長も!俺様が壊してやるよぉ……そうして、俺様がこの国を……ギャハッ!キヒヒヒヒヒヒヒヒヒッッ!!まずはアルベール……そしてぇ、俺様に恥をかかせた……【召喚士】のクソガキぃぃぃぃぃぃぃ!!」


(なんなの、この人たち皆……皆っ!!)


 狂ったようなコランディルは叫声を上げ続ける。

 この状況、昨夜の数時間前とは別人のような三人の男に、傷だらけのアルベール、混乱するしかないメイリン。そして……この【七つ木の森】に酷似した森。


 【召喚士】エドガーによる、異世界創世記の序章プロローグは、こうして整った。

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