Part3


 深夜のロヴァルト家、アルベールの部屋に訪れたのは……コランディル・ミッシェイラの部下の【従騎士】、イグナリオ・オズエスだった。

 しかし……彼の姿は。


「……ご明察だぜぇ、こんな姿・・・・になってもわかってくれんのかよ、アルベールぅ!」


「な、んだ。なんなんだよっ……そ、その姿はっ……!」


 アルベールの瞳に、以前までの彼の姿は映っていない。

 その肌は褐色ではなく、青黒い鉄色。血管が浮き上がり、筋肉質な身体が更に屈強に増幅している。目つきはまるで動物のように鋭く、結膜は真っ赤に充血し、口内からは鋭い牙が見え隠れしている。


「――オレは生まれ変わったんだよ、コランディル様のおかげでなぁ!」


「う、生まれ変わっただと!?どういう意味だ!それに、どうやって警備を抜けて来たっ、屋敷には大勢の見張りも、護衛も!」


 疑問はそれだけではない。

 その変貌した凶暴な姿も、ここまで来た経緯もだが、最大の理由はアルベールに会いに来た理由だ。


「ああ??そんなもん、誰にも見られねぇよう……」


 スッと、イグナリオは指先を上空へ向けた。


「……ま、まさか」


「そのまさかさ、アルベール。上だよ、上。空だ……オレはなぁ、翼を手に入れたんだよぉぉぉぉ!!」


 ――バサァァァッ!――


「っ!!……嘘だろ……それじゃ、まるで……」


「ギャハハッ!そうだよなぁ、そうだよなぁアルベールゥゥ!!怖えよなぁ!この姿は!」


 突然イグナリオの背に出現した、二対の翼。

 蝙蝠こうもりのような黒い翼は、細い骨組みのように。横幅はイグナリオの身長186センタル(cm)を超え、より獰猛さを見せていた。


「……おとぎ話の……悪魔・・っ!?」


「さぁ。オレたちの話し合いをしようじゃねぇか、クソ貴族のアルベール君よぉぉぉ!」


 イグナリオは窓枠にゴツゴツした手を乗せ、アルベールを睨んだ。

 アルベールはイグナリオを警戒しつつも、エドガーの話を思い出す。


(エドに話を聞いておいてよかった。そのおかげで、普段より冷静だ……コイツがどんな手段であの姿を手に入れたのかはわからない。が、俺に敵意を向けているのだけはわかってる……なら!)


 アルベールは後方に飛び、部屋のドアノブを掴もうとした。しかし。


 ――バチィッッ!!――


「づっ……!!な、なんだっ!?!?」


 指先を弾かれ、アルベールは見えない何かに押し返される。

 それを見て、イグナリオは高らかに笑った。


「ギャハハハハハッ!!出れねぇよ、オレが……そうしたからなぁぁ!!」


 ――シュッ……ドンッ!!――


「ぐはっ……イ、イグナリオっ……」


 室内に侵入したイグナリオ・オズエス。腹部に感じた一瞬の鈍い痛みに、アルベールは床に倒れた。大きな物音を立てるも、外の誰も気付かず。そうして、アルベールは部屋に閉じ込められてしまったのだった……。

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