Part2


 部屋の入り口でメイドのフィルウェインに言う。

 アルベールも今日、考えなければならない事柄が多く起きた。

 それを、しっかりと口にする。


「さて……俺も今日はもう寝るよ。フィルウェインも、他のメイドも、そうだな……昼前までは起こさないでくれ、考えたいことがある」


 アルベールはフィルウェインにそう言い部屋へ向かった。普段は早朝から剣の修業を行うが、先程のこともありと、フィルウェインも納得した。


「かしこまりました。お休みなさいませ、アルベール様」


「ああ、悪いな」


 ――ガチャン――


 そう言って扉を締め、フィルウェインが頭を下げていることも気付かないままに、アルベールは暗い部屋で深いため息を吐いた。


「はぁぁ〜〜〜〜〜〜、クソダサいな俺は。フィルウェインたちは良くしてくれている。いくらエドの使い魔?ってのがあっても、あたるのは間違いだろ……」


 本日の情けない自己評価を増やし、アルベールは机は着いた。

 豪華な机は貴族ならでは。しかしその机の上は、羊皮紙やアンティークの小物が置かれ、万年筆やインク瓶も綺麗に整えられている。


「メイリンとの関係を認めてもらう。確かにそれが目的だ……だけど、俺はそれを隠している。メイリンとの約束ってのもあるが、やはり貴族と平民の壁は厚いし高い。農園が貴族間でも有名なのは大きいんだけどな……」


 しかしそれは【サザーシャーク農園】の功績。アルベールの功績ではなく、元を正せば、農園を大きくする手助けをしたエドガーの功績とも言えてしまう。

 それが、アルベールにとっては悔しさの大本だ。

 大貴族である父、ロヴァルト公爵を納得させ、メイリンとの結婚を認めさせるには、まだまだ何もなし得ていない自分では、納得させるのは不可能に近い。


 ――ダンッ!――

 机を叩く音が、むなしく響く。


「くそっ……これじゃあ俺はっ!!」


 宿では隠していた感情が溢れる。

 エドガーに対する、彼が本当は“できる男”だったという衝撃。

 愛する女性の尊厳を守ることもできず、呆然と時間が過ぎるのを待つしかできなかった自分。【聖騎士】となり、第二王女の派閥に与しているとはいえ、結局はなにも変化はしていなかった。


 自分の不甲斐なさに苛立つアルベール。

 そんな彼に、不意に声が掛けられる……それも、窓の外から。


「――情けねぇよなぁ」


「……っ!!だ、誰だっ!!」


 ――ガタン――


 勢いよく立ち上がったアルベールは、咄嗟に剣を抜く。

 いつもの愛剣ではなく、護身用の直剣だが。

 そして窓の外を確認。すると、その人物は月の光を浴び、その姿を現す。


「お前……まさか、イグナリオかっ……!?」


 月明かりで照らされるそのくすんだ金髪。

 乱暴にオールバックにし、鋭い目つきでいつも主人を見る。

 長身で褐色肌。粗暴な見た目に反し、堅実な剣技を使う……【従騎士】の青年だった。

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