Part7


 行方がわからないアルベールの捜索が続けられるロヴァルト家。

 次女エミリアも起床し直ぐ捜索を開始しようとしていた。そして順に、今朝の事情のあらましを聞き終えたところだ。


「……父様と母様には?」


「旦那様にはお伝えしました。ですが奥様には、伝えるなと言われています」


 ロヴァルト家の父、ロヴァルト公爵は長男アルベールの失踪を、妻である婦人に隠した。その理由には姉妹も納得する。


「でしょうね。母様はお身体がお弱りになっているもの……言えないわ。姉さんは、探しに行ったんでしょ?ナスタージャ」


 エミリアは今、メイドのナスタージャに身支度をしてもらっている。

 貴族令嬢なのだから当たり前ではあるが、行動も他の皆より遅れていたし、マイペース過ぎる……というのは、長女アルメリアの妹の評価だ。

 しかしそれを咎めないのは、ある理由がある。

 早朝からの捜索、そしてようやくの身支度。順序が逆ではと思う節もあるだろうが、それを補うものが、エミリアにはあった。


「そうですね。でもってワタシは、エミリアお嬢様に聞いて・・・おけ……というわけですよ」


 エミリアは動物的と言えるほどの直感を持っている。

 他所のタイムロスがあろうとも、何かヒントを持って来ると判断したのだろう。


「……簡単よ。黙ってエドに聞きに行けば良い」


「エ、エドガー様にですか?けど、エドガー様もワタシたち以外の魔力判別は難しいと思いますよ?フィルウェインが言うには、坊っちゃんの部屋に残されていた魔力はそうとう微弱だったそうですし」


 ナスタージャは、エミリアのカナリーイエローの優しい金髪を梳きながら言う。

 ナスタージャが思うのは、エドガーに屋敷に来てもらい、アルベールの部屋を調べて貰うのだろう……という予想だったが。


「違くて。エドに聞くのは、普段エドがやってる情報収集とか、そもそもの知識とかの方だよ」


 しかしエミリアは、実に明るい声音で言った。


「え……お嬢様、エドガー様のアレ、知ってたんですか!?」


 エドガーは度々、【福音のマリス】の食堂で客のフリをし、情報収集をしている。

 主に【王都リドチュア】から食事に来る労働者や、他国の旅行客から。

 エドガー的にはコッソリとやっていたつもりだが、エミリアにはバレていたらしい。


「見てるからね。それで、エドなら兄さんに対する噂を聞いてる可能性もあるじゃない。それに、あたしたちの知らないことも、沢山知ってるでしょ?」


「た、確かにっ!」


「兄さんはあれでも立派な【聖騎士】。正直、家族贔屓でも顔が良い……王都の女性からも言い寄られているのを見ているし、見合い話もしょっちゅう来てるからね」


 髪やメイクの準備を終えて、最後は服を着る。

 【聖騎士】の制服に似た、白基準の【従騎士】の服。

 ナスタージャは最後にせっせとマントを羽織らせ、【従騎士】エミリア・ロヴァルトの完成だ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る