Part6


 アルメリアの耳に、その言葉が入る。


「――室内の窓際に、魔力の反応がありました」


「!!」


 昨日の今日、幼馴染に聞いたばかりの話。

 現実にそれが存在し、おとぎ話だけではないと証明された……魔力と魔物、という存在。アルメリアはフィルウェインの手を取り、他のメイドに「貴女は仕事に戻りなさい」と声がけして屋敷の自室へ急ぐ。


 ――バタン!!――

 と勢いよく扉を締め、アルメリアは焦ったようにフィルウェインに迫る。


「魔力とは、どういうことですか!?」


 現在、アルメリアの知る魔力を所持している存在は、エドガーと【従魔】たち。そしてエドガーと道を違えた異世界人……その三人だけだ。


「ご安心を。我々の魔力ではありません」


「当然です!もしそうだったら……わたくしはっ――」


 一瞬だけ、疑いを向けてしまった。

 もしかしたら……魔物である彼女たちの誰かが、と。

 しかし言いかけて、アルメリアはそれがどのくらい彼女たち、そしてエドガーを傷付ける疑いなのかに気付く。


「……ご、ごめんなさい、フィルウェイン。本当はそんなこと、思っていないのです……貴女たちの誰も、エドに迷惑をかけるような真似を、するわけがないと」


 一歩下がり、アルメリアは片手で顔を覆った。


「いえ、心配するのは当然です。疑いを持つのも当然でしょう……アルメリアお嬢様もエミリアお嬢様も、魔力や魔物という概念を知ったばかり。その対象が我々しかいない時点で……疑いが向くのは必然です」


 フィルウェインはアルメリアの肩に手を置き、彼女に非はないと言う。

 実のところ、今朝の騒動で一番責任を感じていたのはフィルウェインだった。アルベールの専属メイドとして働く自分ならば、最大限アルベールの行動に気付けたのではと。


「――ありがとうフィルウェイン。では、その魔力が誰のものか……わかるのですか?」


 気を取り直したアルメリアは、真剣な面持ちで。

 フィルウェインも判明している点だけでもと、答える。


「はい。魔力の念は非常に小さく、波動も負の力だとわかっています。が、正確に持ち主を確定できる情報はありません」


「負の力ですか?」


 フィルウェインはコクリと頷いた。


「……昨夜、エミリアお嬢様がエドガー様にプレゼントなさったあの“石”……【聖石】と真逆の存在――【魔石】です」


 【魔石】。【聖石】の正反対に位置する“石”であり、この二種を総じて【輝石】と呼ぶ。昨日の夜エミリアがエドガーに贈った【消えない種火の紅玉インフェルノルビー】は、その【聖石】の最上級品と考えられる。


「ではつまり……エドや貴女たち【従魔】も知らない、その【魔石】を所持する何者かが……この王都に存在している。そういうことですね?そしてその人物、もしくは魔物が窓から侵入し、兄さんを」


 血痕はない。争った形跡も。

 ならば、アルベールは生きている……攫われたのだ、誰かに。


「……はい。確実に、【魔石】を操る何者かが」


 【輝石】の波動は、聖の力と負の力に分けられる

 【従魔】であるフィルウェインだからこそ、その残滓ざんしを判別できたのだ。そしてアルベールの消息は、その何者かが関わっている。

 鍵を握っているのかそれとも、その誰かこそが、アルベールを攫った犯人なのだろう……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る