Part8
準備を整えたエミリアと、【従魔】のナスタージャ。
エミリアは今日の方針を口にする。
「まずはエドに会う。兄さんのことだから、きっと大丈夫。できるなら姉さんと合流して、一緒に行くから」
「か、かしこまりました!アリカにも伝えておきますっ!」
エミリアは「さてっ」と気合を入れるように部屋の壁に向く。
壁には数本の槍が立て掛けられており、その一本を手に取る。
「……もし、犯人と戦闘になるようなら」
昨日の誕生パーティーの様子がエミリアの脳裏を過る。コランディル・ミッシェイラと、二人の【従騎士】の存在が。しかし痛い目にあったその日、たったの数時間も経たずに反撃などするだろうか。
そういう予想もあり、姉のアルメリアも犯人候補から外していたのだろう。魔力が関わっているという点もあるからだ。
部屋から出たエミリアは、廊下を歩きながらかつて父に言われた言葉を口にする。
「貴族は恨みも買う。特に同じ貴族から……それが振る舞いのせいならば、責は自分が負うべきだ。だからこそ……普段から自分を律する姿を見せることが大事。そうすれば、自ずと民草はついてくる」
【王都リドチュア】に屋敷を構えるロヴァルト家に、治める領土はない。
四大公爵家は、最も聖王家に近しい存在として常に王都への在中を求められているからだ。しかしそれを快く思わない人物もいる。
そうならないための家訓だが、成り上がりのロヴァルト家にはそういった視線がついて回っている。
「――お嬢様、ご準備ができましたよ!」
「了解よ。急いで【七つ木の森】に向かって!!」
外から駆けてきたナスタージャに頷き、エミリアは槍を持って馬車に乗り込んだ。
◇
そして姉、アルメリアも行動を開始している。
兄のメイドであるフィルウェインを連れ、彼女から魔力などの情報を聞きつつ移動をしていた。自分のメイドであるアリカは、念のために留守番だ。
「そろそろあの娘も行動しているでしょうし、
「アルメリアお嬢様。ミュンと連絡が取れました」
ここは王都内の情報が集まる、小さな情報露店。
アルメリアは都内で聞き込みをしつつ、ここに到着。
この小さな露店は、【従魔】ミュンがよく連絡を残しているからだ。
「彼女はなんと?」
「はい。やはり、昨夜から今朝にかけてアルベール様の姿は見られていません。ミュンも、深夜にアルベール様が帰宅なされた姿は確認していたそうですが、その際は一人だったそうです」
フィルウェインは羊皮紙を確認しながら、アルメリアへ報告する。
どうやら王都で情報屋をしている三体の【従魔】は、この露店を掲示板代わりに使用しているらしい。
「そうですか……ですがどうやって王都の外に。いいえ、そもそも屋敷からどうやって抜け出し……いえそれも違いますね。誰がどうやって、屋敷に侵入したのでしょう」
「魔力が関わっているのは確かです。ですがこの王都……いえ、この聖王国に、そのような存在がいるとは思えません」
フィルウェインは眉を顰め、過去に異世界人の三人から聞いた情報を思い出す。
魔力や魔物など、おとぎ話に登場するその数々のワード。自分たち【従魔】とて異世界の魔物であり、今でこそ人間の姿を保っているが、エドガーの魔力がなければ魔物の姿に逆戻りなのだ。
そんな【従魔】の彼女たちですら、屋敷の魔力反応の細微は気付けなかったのだから……。
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