Part3


 所変わり、場所は深夜の宿に戻る。


「――じゃあ、俺たちもそろそろ帰る。悪いなエド、遅くまで色々と話を聞いちまってさ……ホント、色々助かった」


 【七つ木の森】の中心にある、【福音のマリス】。

 深夜になり、一悶着あった誕生会はお開きに。【召喚士】について結構な時間をかけて、幼馴染の少年を問い詰めたロヴァルト家の三兄妹も、ようやく帰路につこうとしていた。


「い、いや……いいよ全然。うん、いいんだよ……これくらい」


 眠そうな顔をしながらも、エドガーは宿の入口で幼馴染三人とメイド三体、そして家への帰りである従業員、メイリンを見送る。


「うわぁ……エド、めっちゃ疲れてるじゃん……」


 エミリアは苦笑しながら、エドガーの疲労困憊の顔を見ていた。

 長女のアルメリアもそれを見て、申し訳無さそうに口にする。


「すみませんでしたエド。長い時間、質問を続けて……ですので、明日はゆっくりお休みくださいね?くれぐれも、無茶は駄目ですよ?」


「え??あーうん。寝てたいところだけど、ちょっと試したいこともあるし。あー大丈夫、無茶はしないよ」


「それならよいのですが……」


 エドガーの言うそれは、召喚のことだった。

 前から探していた“石”が手に入り、気持ちは寝たくない精神で一杯なのだ。もしも望みの召喚ができれば、エドガーはまた一歩前進する……夢へ。


「おっと、馬車が来たな。二人はメイドたちと馬車で帰ってくれ。俺はメイリンを送って行くからさ。にしても、いいのか?エド。馬車は本来、森の中を通れないんだろ?」


 本来、馬車は森の入口まで。

 しかしエドガーが許可し、森の中を進んで宿まで馬車を入れたのだ。


「ん?いいんだよたまには。そろそろ道を整備して、広さも拡張しようと思ってたし、その方が安全だろう?それに、森の主が言ってるんだから気にする必要はないねっ」


「そうですね、その方がよろしいかと。エドのご厚意、ありがたく利用させて頂きましょう兄さん」


 エドガーの言葉にアルメリアも頷く。

 馬車の件も、メイリンを送る件も同意だ。先ほどの一番の被害者であろう、メイリン。貴族の青年にけなされ、暴言を吐かれて心も傷付いているだろう。


「……ごめんね、皆さん」


「いえ。では……わたくしたちは。兄さんはしっかり、メイリンさんを送り届けてください」


「そーだよメイリンさん。遠慮しないでね!っと、そんじゃね、エド!」


「うん。気を付けて」


 フィルウェインが御者を務める馬車に乗り込み、そうして姉妹は帰って行く。

 アルベールとメイリンも、ゆっくりと静かに森を歩んで行った。

 ようやく二人の時間を取れるだろうと、エドガーもその背を見送るのだった。

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