Part2
部下の態度に、コランディルは小さい言葉で圧を向ける。
「――なんだ?」
「なんでもねーっすよ。しかしどうするんすか?最初は、アルベール・ロヴァルトの奴の色恋沙汰を咎めるつもりだったんすよね?」
イグナリオの案外まともな言葉に、コランディルは眉をひそめ「むっ」っとする。
「明日には王城へ
マルスは不安そうな顔で主人を見る。
コランディルはますます眉間に皺を寄せ、考えるように。
「遠征は報告する。だが……森でのことは報告しない」
「いいんすか?それで」
(……学生時代から、この男はこんなんばっかだ。情けねぇと思わねぇのかよ、いつもいつも。アルベールには執着するくせに、いざ面と向かうと逃げ腰になる)
「まぁ、そうですよね」
(また始まってしまったわね、コランディル様の悪い癖が……)
この三人とアルベールは、騎士学生時代の学友だ。
【聖騎士】として出世したのは二人。ライバル関係だった二人の関係は、同じ公爵家の子息としても、騎士としても同等だったはず。
しかしイグナリオの目にもマルスの目にも、その差はハッキリとしていた。
このコランディル・ミッシェイラという青年は、いわば貴族の象徴。
【騎士学校ナイトハート】の教官を買収し、点数を買う。
当代最強と言われた学生、アルベール・ロヴァルトとの訓練
そして得た、ミッシェイラ公爵の威光を傘に、【聖騎士】昇格という栄光を。
(アルベール・ロヴァルトと戦えば負ける。そうなれば、コランディルは首席での卒業はできなかっただろう……当たりめぇだ。努力もしねぇし反省もしねぇ、まぁ反省しねぇのはオレもだが、だが努力はしてきたつもりだ……コイツよりも、何倍もな)
イグナリオも同窓生だ。自分とて【聖騎士】を目指した可愛らしい経歴がある。
しかし未来の結末は、金と権力でその地位を買ったと言えるコランディルの部下。
恥ずべきとは思わないが、心の何処かで煮え
――コンコン――
「ん?コランディル様、失礼しますね」
不意に部屋がノックされ、マルスが綺麗な所作で応答しに行く。
時間は深夜。森から運ばれて数時間という頃合いだ。
訪問者は公爵家のメイドだろうが、流石にこの時間に子息の息子の部屋に来るのは常識がない。緊急ならばもっと慌ててノックをするだろうし、夜伽ならばタイミングを伺い、淑やかに訪問するはずだ。
「……なんだ?」
対応するマルスの怪訝な顔に、コランディルは気にかかった様子で問う。
「それがですね。こんな時間に、商人を名乗る人物がコランディル様にお会いしたいと」
「商人だと?馬鹿か、誰がこんな時間に……追い返――」
話を聞き終えたマルスはコランディルに伝える。
しかし流石のコランディルも、この時間に商人の訪問とは思わなかった。
だが……突如、予感というものだろう。吉兆とも呼べる感覚がコランディルを突き動かす。この商人に会うべきだ。ここが自分の分岐点なんだと、思わずにはいられなかった。
「いや……やはり屋上に通せ。父には知られぬよう、注意してな」
「よ、よろしいのですか?こんな時間の訪問など、怪しい以外になにも……」
「構わん。それと二人共……これは内密だ、いいな。俺様は屋上へ行く、お前たちはついてくるな。これは命令だ」
「は、はぁ……」
「しゃーねぇな」
コランディルはもう、その怪しさを疑うこともしなかった。
ベッドから置きて立ち上がり、服を着て準備を始める。
その様子はどことなく急いでいるようにも見え、マルスは支度を手伝いながらも不信感を覚えていた。そして……コランディルは一人で屋上へ向かう。
暗い屋敷内をゆっくりと歩いているつもりでも、どこか無意識の急ぎ足で二階へ上がる。手に持つ蝋燭立ての明かりが窓を照らし、自分の顔を映している。
予感から来る、静かな笑み。口端を歪めるその姿は蝋燭の灯で更に歪み、おとぎ話に登場する……悪魔のように映るのだった……。
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