第07話『煮え滾るは復讐の汚泥』全9Part
Part1
落下し気を失った貴族の青年は、王都の屋敷で目を覚ました。
空高くから落ちるも、木々のクッションのおかげで切り傷のみ。意識を失ったのは、牛の【従魔】の角で舞い上がった瞬間。
その勢いと負荷で一瞬で意識を失い、気付けば屋敷のベッドの上。
「――はっ!!こ、ここは……屋敷、だと?まさか、くくっ……そうか、夢か。俺様があの獣ごときに敗れるわけはないのだからなぁ!」
起き上がり、今日のことは悪い夢だと判断しようとしたコランディル・ミッシェイラ。しかし、現実は後ろから追いかけてくる。
「……は?」
目の前に、ズタボロの聖騎士服が掛けられていた。
半壊した鎧も床に置かれ、そして【従騎士】イグナリオとマルスが、へとへとになって背中合わせで座っていた。
「ま……まさか。夢、じゃない?あの獣は、本物だっていうのか?」
フラッシュバックする猛牛の巨体。
硬い角の一撃は目に見えず、無傷だったのは……鎧が肩代わりをしてくれたからだと悟った。【従魔】メジュアの手加減だとは知らずに、自分が運の良い人間だと、コランディルは思った。
「そうだ!あの【不遇召喚士】のことを、騎士団に報告……い、いや、そんなことをしては俺様の評価が……!だ、駄目だ!!折角の昇級チャンスを、不意になど!」
コランディルは今回、【福音のマリス】へ訪れる前の遠征で、騎士団から試練を言いつけられていた。この平和な国での試練など、他の国に比べれば楽なものだろう。
しかし北国の国境付近まで遠征し、隣国の状況を確認する試練はクリアした。
だが宿での些細な小競り合いを報告すればどうなる……。
国が名指しで定めた【召喚士】、それを自分は知らなかった。更には無様な敗北、しかも【召喚士】本人にではなく、従えた獣にだ。
「くっ……!ど、どうすれば!!家督を継ぐ予定の俺様の失態は家の失態、敗北……敗北?いや違う、俺様は負けてなどいない!得体の知れない獣の暴れた森で、【聖騎士】たる俺様がそれを発見した!巨大な獣であろうと、【聖騎士】全軍でかかれば敵じゃない……そうだ、イケる……イケるぞ!!」
森の獣の突然変化。巨大化したその獣を、【聖騎士】の自分が発見し報告する。
その獣を飼っているのが
コランディルの中で、既にきっかけであるアルベールと平民の恋路など、関係なくなっていた。
「――コランディル様?よかった、お目を覚まされたのですね!」
「マジか。いやまぁ怪我も無かったしな」
【従騎士】二人も目を覚ました。
二人も無傷。マルスもイグナリオも、メジュアからは攻撃すらされていない。
「しかし何なんだよあの化け物は」
「知らないわよ。あの【召喚士】が呼び出したんじゃない」
女性口調のマルスは、イグナリオの疑問に嫌悪をむき出しにする。
しかしその際もコランディルの世話をし、せっせとコランディルの汗を拭いていた。
「確かに化け物だったな。まるで赤子と大人だ……俺様の剣も、届かないほどのな」
「そっすね」
(テメェはオレ等に戦わせて腰抜かしてただろーが)
少し前の出来事にも悪びれないコランディル。
まるで自分が一番善戦したかのように台詞に、イグナリオは小さく舌打ちをしたのだった……。
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