Part9


 【従魔】たちとは違う存在の、彼女たち。

 その詳細を、エドガーは三人の幼馴染に語る。


「彼女たちは、僕が五年前に召喚した……異世界からのお客様だよ」


「い、異世界?知識ってまでは、まぁおとぎ話的なノリで理解できる……けどね?」


「いいえ、エミリア。異世界からのお客様……既に知っていますでしょう?」


「……えっと……」


「いやいや、エミリア。【従魔】たちだろうが……」


「あ!!そ、そっか!ナスタージャたち全員、エドが召喚しているから……べ、別の世界の人だったの!?そ、そんなのあり!?」


 後ろにいるフィルウェインに対して、今更な疑問を言葉にする。

 フィルウェインは涼しく笑みを見せ、「そうです。それぞれバラバラの世界ですが」と。


「人ではないってば。エミリア……まぁらしいけど」


 エドガーは立ち上がり耳を澄ます。

 コートの裏のチェーンアクセサリーがチャラリと音を鳴らすと同時に、森の奥の方で――ガサガサ……ドン、と。


「……落ちたな、コランディル」


「ええ、随分と長い滞空時間でしたが……彼は、エドのことを報告するでしょうか?」


 死んでいないという確信はあるらしい。

 仮にも【聖騎士】、無様に負けて……いや、戦ったかすらも怪しいが、それでも空高く吹き飛ばされ、長い滞空時間を経て落下して生きている。それだけでも充分だろう。


「無理だろ、信じないさ王族の方々は。俺たちの報告すら、信じてもらってるかは怪しいだろ?それでなくても、異世界から召喚されたとか……見ないで信じるのは難しいって、俺たちが一番理解してる」


 アルベールが両手を上げて言う。


「確かにそうですね。それに、彼……コランディル・ミッシェイラはプライドの高い人ですし、まさか牛に吹き飛ばされて負けただなんて、口が裂けても言えないでしょうから。仮に、正直に【召喚士】に負けたと言ってしまえば……」


「確実に失脚するよね」


 指先を頬に当てて、アルメリアも予測を言う。エミリアはもう確信していた。

 しかしこのまま終わるとも思えないのが現状だ。エドガーは厄介な客を追い払っただけのつもりだが、【聖騎士】の二人からすればそうでもない。


「明日以降も警戒だな」


「はい、兄さん」


 【聖騎士】二人はそれで納得。しかしエミリアはまだまだエドガーに聞きたいことがあるのか、しつこく「ねぇねぇ」と迫っている。エドガーは「あーうん」と流そうとしていた。その様子を見て、アルベールとアルメリアは。


「エドのことは心配いらなさそうだな」


「ふふっ。そうですね」


 【召喚士】の華々しい初陣とはいかなかった。

 しかし幼馴染には自分の在り方を知ってもらえた。エドガーは従業員の心を守り、宿の評判も変わらないだろう。

 コランディル・ミッシェイラは、自分のプライドのために今回のことは報告しないはずだ。世間的には、なにも変動しない一夜。

 変哲もない世界は未だ変わらず、しかし刻々と、そのときは近付きつつある。


 エドガーと彼女たちの出逢い、そして再会まで……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る