Part6


 恐怖を顔に出したままのマルス・ディプル。

 背中を蹴り飛ばされ、強制的に巨獣の目前へ晒された。

 ここからは戦うしかない。そう観念したマルスは、震えながらも……。


「い、行くわよ……!ふあぁぁぁぁぁ!!」


 女性口調のマルスが、オズオズと斧槍を構え突撃する。

 しかしメジュアは軽々と動き、その大きな角で受ける。


 ――キィィン――


 軽い音が鳴った。

 恐怖で力の入らないマルスの槍は、メジュアの角に触れただけ。

 しかしその横を、イグナリオの大剣が横切る。


「首を斬りゃぁぁぁぁ化け物だってなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


『――!』


 いくら巨体でも、首は人間の胴体ほど。

 イグナリオも自分の腕力に自信があるのだろう。大剣と合わせても、そのパワーだけは【聖騎士】にも劣らないと。しかし。


 ――ガッ!ギィィィン!!――


「な……んだとっ!?オレの剛剣だぞっ!!」


 ただの首肉に弾かれ、イグナリオは後方に飛んだ。

 衝撃も全て吸収され、ダメージは完全に無かった。


『??』


 何かしたか。そんな言葉を投げそうに首を傾げるメジュア。

 その隣りにいたエドガーは言う。


「流石、【従魔】一の防御力だね、メジュア……良い毛並みだ!」


『フモゥ、フモゥ♡』


 エドガーは晴れたような笑顔でメジュアの硬毛を撫でる。

 先ほど大剣を弾いたとは思えない柔らかな質感を見せ、メジュアは気持ちよさそうにまつ毛の長い瞳を細めていた。


「ふ、巫山戯ふざけやがって。この俺様を、【聖騎士】を侮辱した罪……決して許されんぞ!!【召喚士】っ!」


「はぁ……何を言ってるかよくわからないな。僕はただ、ウチの有能な従業員を馬鹿にされたことを怒っているだけで、貴方たちがただの客だったのなら、大手を振り歓迎するよ。でも、それをそちらから拒否したんじゃないか。僕の大切な人たちに迷惑をかける輩がいるのなら、僕は自分の立場ふぐうなんて関係なしに手を下すんだ」


 猛牛に睨まれている状況で、その主人に牙を剥くコランディル。

 大量の冷や汗を流しながら、エドガーに対して暴言を続ける。

 その様子に、メジュアは苛立った様子で息を荒くする……鼻息である。


『ブモォォォ……ンモォッ!!』


「ま、待て!!俺様は人間同士での戦いを――」


「……まだ言うのか……メジュア!」


『ブモォォォォォォォォォォォォ!!』


 ――グンッ!!――


 その硬い角で、メジュアはコランディルをしゃくり上げた。


「――え??」


「「コ、コランディル様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」


 角は【聖騎士】の服に引っかかり、一瞬で消えたコランディルの姿は空高く。

 ちゃんと手加減はできていた。それだけで、この凶暴な猛牛ちゃんを褒める理由になるだろう。自分は基本、なにもしない……できない。

 【召喚士】の戦いは、召喚することだけ・・なのだから……。

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