Part5


 ――コォォォォォォォォォ――


 魔法陣による光が収束し、その異様な光景に対して無言になっていた三人の騎士は、ようやく重くなった口を開く。


「な……なんだ、この牛は」


「コ、コランディル様、私たちは……夢でも見ているのでしょうか」


 【従騎士】二人は牛……メジュアを見上げ表情を暗くする。

 そしてその主、【聖騎士】コランディル・ミッシェイラは。


「ハ、ハッタリに決まっているだろうが!手品か、奇術のたぐいのなにかだ!!お、お前たち……攻撃だ!!その化け物を、斬れ!そして能無しの【召喚士】を……殺せぇぇ!!」


 もう注意も警戒もない。

 自分の尊厳だけが大事な青年は、目の前の怪異……【従魔】メジュアの威圧に屈していたのだ。


『――ブモォォォォォォ!!!』


 巨獣として召喚された、糸目でおっとりとした口調の女性だった存在。

 語尾を「〜」と伸ばす口癖など消え去り、眼光鋭く主人の敵である三人の男を見下ろす。


「メ、メジュア、いいね。手加減だよ手加減、相手は人間、まだそのときじゃない。最低限に抑えられると思ったから君を呼んだんだからね?いいね!?」


 なぜか一番焦っている召喚主。

 まつ毛の長い巨牛は、エドガーの方を見てスリスリと頬を寄せた。


「本当にわかってるのかな……」


「お、おい貴様!!男のくせに、そんな化け物を従えて……情けないと思わないのか卑怯者が!!影に隠れてないで、正々堂々と前に出て戦え!!」


 もう既に戦意などないのか、コランディルはメジュアと戦うよりもエドガーを潰す選択をしたようだった。しかしエドガーは、堂々と宣言する。


「――【召喚士】が召喚した存在を従えて何が悪いんだ!!これが僕の戦い方なんだ!まずはこの従魔を倒してから言ってくれるかな!?……もしくはさっさと帰れ!!」


 最後のが本音だろう。

 本来、エドガーは好戦的ではない。

 従業員をけなされることがなければ、前に出ることもしない。

 例え自分の立場を揶揄され、暴言を吐かれようとも、エドガーは自分のためには戦うことはしない。


『ウムォォォォォォォォォォォオオオオ――!!』


「ひ、ひぃっ!」


 正面にいた長身の男、マルスがしゃくり声を上げて一歩引いた。

 しかし上官であるコランディルが、マルスの背中を蹴るように押し出し。


「――お前が先に行け!どうせハッタリの獣ごとき、その自慢の槍で一突きにして倒してみせろ!お前もだイグナリオ!なんのためにその図体をしている!俺様を守るためだろうが!!」


「……ちっ、こういうときだけよぉ。行くぜマルス、【聖騎士】様の命令だ……【従騎士】のオレ等は拒否できねぇ」


 コランディルの正面に二人、【従騎士】が立つ。

 目の前には通常の牛の数倍の猛牛。

 巨大な角は鋼鉄よりも固く、皮膚も筋肉も鎧のような質感だった。

 なによりその威圧感による恐怖は、この世界の人間には到底克服できるものではなかった……。

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