Part4


 召喚をまともに見たのは、おそらく聖王国民でも、この場にいる人物たちが初だろう。不遇職業であるエドガーの力。忌避され、逃げるように森へ隠遁したきっかけであり、誰もが忘れ去った……魔力の賜物たまもの


「あれが、エドの本当の召喚……?」


「まったく違いますね、今までわたくしたちが見てきた召喚と」


 窓の中、そしてその側から幼馴染の後ろ姿を見る三人の兄妹。


「エドの奴……まさか今まで言ってた、魔力とか魔物とか……全部」


 正直な話、エドガーは嘘を吐いていると思っていた。

 夢幻を語り、虚言癖と囁かれた少年は、こうして現実に魔物……【従魔】を呼び寄せた。アルメリアとエミリアは、宿の中のメイド三人……いや、三体に目を向ける。

 フィルウェイン、ナスタージャ、アリカ。エドガーの使い魔であり、外の【従魔】、メジュアと同じ存在に。


「――はい。我々の真の姿も、外のメジュアと同じ……魔物です」


 フィルウェインの言葉に、ナスタージャとアリカも頷いた。


「やっぱり、そうなんだ……でも、不思議」


「そうですね。不思議と、恐怖心はありませんよ。フィルウェイン、大丈夫……わたくしたちは、誰も貴女たちを恐れない」


「感謝します、お嬢様方」


 エミリアとアルメリアの言葉に、フィルウェインは深く頭を下げた。

 以前からエドガーは、彼女たちを使い魔だと、【従魔】だと言い伝えていた。

 正直な話、三兄妹は設定の話だと思っていた。彼女たちは、先代の【召喚士】であるエドガーの祖父の知り合いなのだと、そう思っていたから。


 しかし今、それはエドガーの言葉通りに覆され……いや、証明された。


「――あーあ、ワタシが行きたかったなぁ。なんでメジュアなんだろ」


「相手が三人だからでしょう?いいじゃないですか、今度呼ばれればいいのですから」


「同意」


 呑気な会話をしているのは、【従魔】のナスタージャ、ホリィ、ウェンディーナ。

 まるで主人が戦っている雰囲気ではなく、食堂のテーブルに着いて談笑している。

 そしてやはりメジュアの姿はない。外にいる猛牛の魔物がメジュアなのだから当然だが。


「す、凄い楽観的ね、彼女たち。肝心のエドが戦っているのに……」


「エドガー様ならば心配いりません、エミリアお嬢様。ご覧になったでしょう、召喚で我々を呼び出した時点で、勝利は確約されています」


 エミリアのコップに飲み物を注ぎながら、フィルウェインは爽やかな笑顔で答えた。他の使い魔たちも、自分以外が呼び出されたことに多少の不満はあろうとも、エドガーの敗北は想像もしていないらしい。


「……なぁアルメリア。これ、殿下たちにどう報告すんの?」


「さぁ……わたくしも困っています」


 窓の外のアルベールは、その光景を一番間近で見ている。

 感じられないとは言え、魔力という存在を肌で浴びその腕に鳥肌を立てていた。

 アルメリアも同じだ。今までの監視報告は、何気ないものが多かった……しかしこの状況、明らかに今までの報告から逸脱したエドガーの力を、どうやって記せば良いのかを、考えていた……。

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