Part2


 アルベールがメイリンを退避させたのを横目で確認し、エドガーは手に持つチェーンアクセサリーを見る。ヒュンヒュンと風切り音を鳴らし、今か今かとそのときを待っていた。


「そろそろか……」

(この人が案外警戒心の強い人で助かった。いきなり攻撃されちゃ、召喚の暇もないからね)


 宿の窓からアルメリアの合図を確認し、エドガーはチェーンアクセサリーの回転を加速させる。そして加速と同時に、この場にいる誰も把握できない不可思議な力……魔力を込めた。


「――マルス、イグナリオ、あのガキを囲め。鎖を投擲し、俺様の顔を狙う気だ」


「「はっ!!」」


「はぁ……?」

(き、貴重な“石”を投げるわけないじゃないか!的外れな言葉だけど、警戒してくれたのは助かる。これで……時間は稼いだ)


 込められた魔力は鎖から発生し、先端の石に注がれている。

 発光し、宙に光る石は円を描き、その軌跡はまるで……魔法陣。

 魔力は更に込められ、“石”とリンクした魔力はエドガーの狙った対象を呼び出すことができる。


「――勇んで戦おうとしてくれているのに申し訳ないんですけど、貴方たちと戦うのは……僕じゃないんで」


「はっ!なんだ怖気づいたのか、平民はいつもそうだ……ん?」


 自分が戦わないと宣言したエドガーを笑うコランディルだが、鎖が描いた魔法陣を見て違和感を覚える。エドガーは鎖の遠心力を解いた。それなのに、鎖の軌跡は消えていないからだ。


(流石は【聖騎士】と言えるかな。魔力や魔物をおとぎ話の中の空想と認識していても、目に見える現実には注意できる。魔法陣がなにかわからないから、迂闊な真似ができないんだね)


 エドガーは感心しているようでしていない。

 忘れ去られてしまった歴史を知る自分を上に置くわけでは無いが、【召喚士】を知らないこの【聖騎士】に、自分を倒せるとは思わない。

 警戒しようが、先んじて攻めて来ようが、なんら変わらないとわかっているのだ。


「――では、そんな【聖騎士】コランディル・ミッシェイラ様に自己紹介を。僕の名はエドガー・レオマリス、この宿【福音のマリス】の経営者であり、貴方たちの主……聖王家が定めた不遇職業――【召喚士】だよ」


 別に紹介などする必要などないが、それでも戦いの流儀なのではと、昔に本で読んだ知識を活用したエドガー。するとコランディルは。


「ぶっ!くはっ!!くはははははははははっ!」


 涙を流して爆笑を始めるコランディル一行。

 エドガーは「あれ、間違ったかな?」と首を傾げたが、問題はそこではないのだ……。

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