Part9
主人を諭すように促す部下の男。
しかし、上司である【聖騎士】……コランディルは。
「黙れマルス!俺様に生意気な口を利くこのガキを……教育してやらねばならん!」
教育という名の制裁を加えようというコランディルは、シャランと抜剣する。
「おいコランディル!彼はこの宿の店主で、一般人だぞ!!そこまでするつもりなら、俺だって……――なっ」
アルベールの正面に立つ少年は、自分の手でその言葉を制す。
「お客様にお手を
それは生意気な言葉に聞こえただろう。
なにせ、エドガーは剣すら所持していない。そのままの通りに言葉を受けるのなら、剣も持たずに【聖騎士】を制圧する……そう言っているように聞こえるはずだ。
「……
血走った瞳は、聖王国の人間の特徴である青色。
手に持った剣は【聖騎士】の特注品。白を基準にした制服に、銀の鎧は金の装飾で施され、ギラギラと輝いている。
「僕が無能の平民なのは、この際否定しませんよ。どうでもいいし。ただ……この宿の従業員を貶める発言だけは、訂正してもらいますよ……【聖騎士】、コランディル・ミッシェイラ」
長めの前髪の奥から覗く黒い瞳は、【召喚士】の証であるらしい。
しなやかな身体は剣士と呼ぶには細く、明らかに戦う男の身体ではない。
エドガーはロングコートの内側に手を伸ばし、何かを掴む。
それを見たコランディルは、武器を取り出すと思ったのか警戒する……しかし。
「は、はははっ。あははははっ!なんだそれ、なんだそれは!」
コランディルは手を当てて笑う。
【従騎士】二人も、それを見て爆笑していた。
「……人にはそれぞれ、自分にあった武器があるんだ。笑うのは自由だけど、馬鹿にするのは違うと思うよ……これで痛い目を見るのは、貴方なんだから」
チャラッ……と、懐から取り出したのは、なんの変哲もない鎖だった。
鎖の先に小さな“
エドガーの武器は、どうやらそれらしい。
鎖の先の緑色の“石”は、月の光が当たりキラリと輝く。そしてエドガーはそれを自分の顔の正面に持っていき。
「――【
エドガーの職業は国唯一の不遇職業。
聖王家に監視対象として逐一チェックされている、たった一人の人間だ。王族の指示を把握していない時点で、エドガーによるコランディル・ミッシェイラの評価は……最低値を示した。
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