Part7


 少し前……宿の食堂、そこの窓から様子を見ていたエドガーは、隣にいるエミリアにその光景を見せないように細心の注意を払いながら、いそいそと食事をしていた。

 その男女の様を見るのも失礼だろうと思い、横目に入れる程度のつもりだったが、そうもいかない状況になった……。


(あれは客、ではなさそうだな。三人……服装から聖王国の騎士、かな。しかも一人は【聖騎士】だ……厄介な。あの様子は怒り?確か、昔からアルベールにしつこく当たる男がいるとか、そんな話をしていた気がする。その人だと仮定して……鎧の家紋は……ああ駄目だ、遠すぎて見えない。けど、視線はメイリンさんにも行ってる、マズいかも知れないよ、アルベール)


 実際あの三人は客として訪れているのだが、空気的に客には見えなかった。

 エドガーは思考を注意から警戒にシフトし、エミリアの視線をさえぎる。

 観察眼は鋭いが、如何せん視力が悪いエドガー。アルベールの学生時代の話を覚えていたからこその予測であり、普段から宿で情報収集をしていたからこそ、様々な知識が蓄えられていた。


「え、ちょっと何エド!不自然過ぎないっ!?」


「いいからいいから、ほらこれ食べる?あーん」


 フォークに貴重な肉を刺し、誤魔化すようにエミリアの口の前に運ぶ。

 エドガーから起こす滅多にない甘い行動に、エミリアはチョロく反応し。


「え、あ。あ……あーーーん。あれ、おかしい、さっきより美味しいかも!!」


 頬を赤くし、エミリアはそのフォークに刺さる肉をぱくり。

 味など絶対に同じだが、そんなことはどうでもよさそうな笑顔で、クネクネと身体を揺らしていた。右に左に、実に嬉しそうだ。


「そか。よかったよかった」

(さて、エミリアはともかく。鋭いアルメリアなら……ああ、やっぱり気付くよね。やっぱり厄介な相手か……となると、アルベールでは分が悪い。メイリンさんとの関係を知られて咎められているんだろう……運も悪い)


 奥にいた姉のアルメリアは、メイド二人と会話しつつも外の様子に気付いたのか、普段のタレ目を鋭くし、食堂からの移動の手間を考えている様子だった。

 最短は、エドガーのいる場所の窓を突き破ることだ。食堂を出てエントランスを通ることが、通常のルートと言えるだろう。


(外の声が大きくなった……これ以上は、駄目だな)


 エドガーは立ち上がり、厨房へ行く振りをしてアルメリアの横を通る。


「――エミリアには気付かせないで」


「エドは?」


「ちょっと見てくるよ」


「すみません……」


 短い会話でやり取りをし、アルメリアは先ほどまでエドガーの座っていた席へ。

 エミリアは怪訝な顔で姉を見るが、その理由は気付かなかった。

 そうしてエドガーはエントランスに出る。使い魔の一体に一言「準備・・を」と声を掛け、宿の入口である大扉を……そっと開けたのだった。

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