Part4


 誰にだって秘密はある。小さなものから大きなもの、バレてはいけない秘密。

 宿の外で仲睦まじい様子を見せる二人の男女にも、そんな秘密がある。

 それこそ、見られてはならない相手が存在するような秘密だ。

 それは他でもない、アルベール・ロヴァルトの同僚である【聖騎士】である。それも同じ公爵貴族であり、昔から何かとアルベールに因縁をつけるような……そんな男だけには……。


「――許せないなぁ、アルベール・ロヴァルト。崇高な貴族であり、聖王家に仕える上級貴族である我々が、平民の……しかも端女はしためのような女に!」


 拳をフルフルと震えさせ、暗がりの小道からベンチに座る男女を睨む青年。

 名をコランディル・ミッシェイラ。聖王国の四大貴族の一つ、ミッシェイラ公爵家の三男でありながら、正当な後継者として未来が確約された人物だ。

 アルベールとは騎士学生の頃の同級生であり、自分がライバルと認めた男だ。それがこんな森の中の宿で、しかもひっそりと、外で女と仲を睦み合っているとは思うまい。


「コランディル様、いかがなさいますか?ロヴァルト家のアルベールといえば、第二王女スィーティア殿下のお気に入り……貴族でありながら、あれはどう見ても遊びではありませんよ」


「……そうだな」


 言葉を並べる【従騎士】の言葉に、コランディルは憎々しい視線でアルベールを睨んだ。殺気の込められた視線には、惚気ているアルベールも気付くだろう。

 ベンチに座りながら目を細めたアルベールは、真剣な顔で周囲を見渡す。

 その様子を見て、コランディルと部下の二人も動きを見せた。


「いくぞお前たち。あの恥知らずの坊っちゃんに、貴族の在り方を教えてやる」


「「はっ!」」




 暗がりでもわかるくらいの殺気が放たれ、アルベールは咄嗟にメイリンを庇うように立ち上がった。


「アルベール?」


「……メイリン、少し……ヤバいかも」

(ヤベェ……タイミング最悪だぞ)


 ツーっと、頬から一筋の汗を垂らすアルベール。

 その彼の睨む先をメイリンも見た。暗がりの、【福音のマリス】の看板裏から、三人の人影が現れる。影はどれも大きく、直ぐに男の三人組だと理解した。

 そしてその装備で、アルベールが焦っている理由も察することができる。


「……せ、【聖騎士】様」


 白を基準にした制服に、鎧は自分を表す特注品。

 腰に下げた鞘には豪華な装飾の剣が携えられ、そして胸には、貴族を証明する家紋。


「二首の犬の家紋……よりにもよってお前かよ、コランディル・ミッシェイラ」


 アルベールが言うように、その家紋は頭が二つの犬が模されていた。

 おとぎ話に登場する空想上の存在の魔物……オルトロス。

 その家紋は、聖王国四大貴族――ミッシェイラ公爵家の物だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る