Part4
誰にだって秘密はある。小さなものから大きなもの、バレてはいけない秘密。
宿の外で仲睦まじい様子を見せる二人の男女にも、そんな秘密がある。
それこそ、見られてはならない相手が存在するような秘密だ。
それは他でもない、アルベール・ロヴァルトの同僚である【聖騎士】である。それも同じ公爵貴族であり、昔から何かとアルベールに因縁をつけるような……そんな男だけには……。
「――許せないなぁ、アルベール・ロヴァルト。崇高な貴族であり、聖王家に仕える上級貴族である我々が、平民の……しかも
拳をフルフルと震えさせ、暗がりの小道からベンチに座る男女を睨む青年。
名をコランディル・ミッシェイラ。聖王国の四大貴族の一つ、ミッシェイラ公爵家の三男でありながら、正当な後継者として未来が確約された人物だ。
アルベールとは騎士学生の頃の同級生であり、自分がライバルと認めた男だ。それがこんな森の中の宿で、しかもひっそりと、外で女と仲を睦み合っているとは思うまい。
「コランディル様、いかがなさいますか?ロヴァルト家のアルベールといえば、第二王女スィーティア殿下のお気に入り……貴族でありながら、あれはどう見ても遊びではありませんよ」
「……そうだな」
言葉を並べる【従騎士】の言葉に、コランディルは憎々しい視線でアルベールを睨んだ。殺気の込められた視線には、惚気ているアルベールも気付くだろう。
ベンチに座りながら目を細めたアルベールは、真剣な顔で周囲を見渡す。
その様子を見て、コランディルと部下の二人も動きを見せた。
「いくぞお前たち。あの恥知らずの坊っちゃんに、貴族の在り方を教えてやる」
「「はっ!」」
◇
暗がりでもわかるくらいの殺気が放たれ、アルベールは咄嗟にメイリンを庇うように立ち上がった。
「アルベール?」
「……メイリン、少し……ヤバいかも」
(ヤベェ……タイミング最悪だぞ)
ツーっと、頬から一筋の汗を垂らすアルベール。
その彼の睨む先をメイリンも見た。暗がりの、【福音のマリス】の看板裏から、三人の人影が現れる。影はどれも大きく、直ぐに男の三人組だと理解した。
そしてその装備で、アルベールが焦っている理由も察することができる。
「……せ、【聖騎士】様」
白を基準にした制服に、鎧は自分を表す特注品。
腰に下げた鞘には豪華な装飾の剣が携えられ、そして胸には、貴族を証明する家紋。
「二首の犬の家紋……よりにもよってお前かよ、コランディル・ミッシェイラ」
アルベールが言うように、その家紋は頭が二つの犬が模されていた。
おとぎ話に登場する空想上の存在の魔物……オルトロス。
その家紋は、聖王国四大貴族――ミッシェイラ公爵家の物だった。
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