Part3
【福音のマリス】の外には、木製のベンチがいくつか置かれている。
外にも室内と同じ魔力ランプ(エドガーの自室はランタン)が置かれ、王都や普通の町の夜よりも明るい。
夜間に緊急な客も来ることがあるため、必ず夜勤で一人は待機している。
しかし今日はほぼ貸し切りで、勤務は終えている……だから、外にいる二人はもう、今日は客が来ないと思っていた。
「悪いな、パーティーの食事まで用意してもらってさ。ありがとな?」
「ううん。私も、久し振りにエドガーくんの誕生日を祝いたかったから。お礼なんていいのよ」
ベンチに二人、腰掛けて酒を
ランプの明かりが照らす二人の頬は赤く、アルコールの影響下だけではない空気感が、その場の甘い雰囲気を醸し出していた。
「ははっ。まぁとにかく、俺がメイリンにお礼が言いたかったんだよ。エドは誕生日とか、そういうのに無頓着だしな……たまに、自分の年齢わかってないんじゃってときもあるしなっ!だから、俺たちがやってやらないと、喜びとかを共有しないようなオッサンになっちまうだろ?」
「ふふふっ。そうね、想像できるかも」
メイリンとアルベールの二人は、エドガーの話で笑い合う。
「それに。俺とメイリンが会える口実にも……なるからな」
「……もう、ズルいんだから」
とぼけた様に言い、メイリンの腰に手を当て引き寄せるアルベール。
密着し二人の影が重なる。恋人ならでは甘い時間はこうして更けて……そうなれば、どれだけよかったか。
◇
【福音のマリス】は本日の営業を終了。そんなときでも、時折やってくる客はいる。旅人ならば、天気の影響で夜間に訪れる可能性もあるし、王都の宿が満室で仕方なくといった客もいるだろう。王都で追い出された可能性もあるし、様々だ。
一般人だけではなく、騎士団もそれは同じ……そう、例えそれが【聖騎士】でも、だ。
暗がりの夜の森を抜け、宿にたどり着いた三人の騎士。
一人は白を基準にした制服に、金の装飾を施した鎧を着込む【聖騎士】。残りの二人は、それに従う【従騎士】だった。
【従騎士】の一人が、宿の前のベンチでくつろぐ青年を目に言葉を発した。
「――あれは、アルベール・ロヴァルトかしら……女と一緒のようですねぇ」
女性口調ではあるが、高身長の青年は、上司である【聖騎士】の青年へ、報告の様に伝えた。隣にいたもう一人の【従騎士】も、同様に。
「そうみてぇだな。あの女、平民か?」
二人の【従騎士】に報告され、その様子を見る青年。
【聖騎士】である青年の拳は……ワナワナと震えていた。
「……へ、平民だと?平民??公爵貴族の家系である、由緒正しき家系のあの男が?俺様と同じ……栄誉ある貴族の、あの男が……平民の女と、だと??」
その明らかな様子は、三人の視界にバッチリと入っている。
身分の違いを考えれば、貴族の子息が平民の女と遊んでいるのだと、そう取れる……しかしこの男、【聖騎士】コランディル・ミッシェイラには違うように見えている。彼には、誉ある公爵貴族の子息であるアルベールが、本気で平民の女に心を許しているように……見えたのだった。
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