Part2


 五年前の王都の悲劇。

 燃える都、沈む太陽、溢れる洪水。

 崩壊する建物に傷付いた民たち……それだけの被害を与えた首謀者として、エドガーは不遇職業の烙印を押され、そしてエドガーもそれを受け入れた。

 本来なら死罪でもおかしくない。だが、それだけで済んでいるのも、不思議な由縁があった。


 都で暴れた三人の女性。

 一人の暴走を機に、残りの二人が彼女を止めるために戦闘。

 短時間だったものの、その戦いでの被害は計り知れない。


 【従魔】の彼女たちが言うように、もしもあのとき彼女たち十二体がいてくれたらと、そう思ったこともあるが……。


(いや、あの暴走は【従魔】では抑えられない。あのときの僕では最悪の結果になっていた可能性もある。いなくて正解だったんだよ、皆は)


 もし、エドガーが彼女たち十二体の使い魔に指示をし、三人を止めろと命令していたら……きっと、滅びていたのは【従魔】たちだ。


 だからこそ……心の中で首を振るうエドガー。

 彼女たちは命を惜しまないだろうが、既に家族のようなもの……エドガーには、それはもう許せなくなっている。庇護され庇護する関係、互いにだ。


「我々からは以上です。ところでお食事はいかがです?ウェンディーナも手伝ったそうですが」


「え?うん、美味しいよ。ウェンディーナも日に日に料理上手になってるね」


 川海老のパスタに、ソース味の炙り肉。【サザーシャーク農園】の野菜サラダ。

 メイリンが主体だとしても、ウェンディーナも頑張った料理だ。


「はい。本当は、アリカが一番料理のスキルがあるのですが……」


「そうなの?あ、そっか……ロヴァルト家で」


「はい。ロヴァルト家の料理長であるお方に、弟子入りしたそうです」


 使い魔であり、人間ではない存在が人間の料理人に弟子入したらしい。

 アリカは兎の【従魔】で、人懐っこい性格で寂しがり屋だ。

 料理人の人に懐いている様が想像できて、そんな光景をクスリと笑う。

 しかし釘も刺しておかなければならない。主として。


「……くれぐれもその人に、勘違いだけはさせないようにね」


「心得ております。我々は、何時いかなるときも……エドガー様以外にこの身体、差し出しは致しません」


 フィルウェインは自分の胸に手を当て、深く頭を下げた。

 意味合いが違うのだが、エドガーは苦笑して。


「う、うん。そういう意味ではないんだけど……?」


 そんな会話をしつつ、料理を頂くエドガーだった。

 その後は順番に使い魔の女性たちと会話をし、三兄妹とも楽しい時間を過ごした。




 徐々に夜も更け、誕生会もそろそろ……といった時間に。

 「ふーー」と腹を擦るエドガーと、その隣でニコニコのエミリア。

 アルメリアは、メイドのアリカとフィルウェインと会話をしていた。

 そんな中エドガーは不意に。


「あれ、そう言えばアルベールは?」


「ん?いないねそう言えば、メイリンさんも……」


 エミリアも気になっていたらしい。

 二人は交際中だ。二人同時にいないということは……。


「なるほど」


「なにがなるほど?」


 「そういうことだよ」と、エドガーはエミリアに言う。

 自分のこと以外は意外と鈍いエミリア。知ってはいるが、見えてはいないのだろう。恋は盲目とはいうが、兄にも気を向けて欲しいものだ。

 そんなエミリアと話しつつ、エドガーは食堂の窓から外を見るのだった……。

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