Part8


 アルベールのプレゼントを受け取り、少々微妙そうな顔をするエドガーに、続いて長女のアルメリアが。


「――では。わたくしからは、こちらです……どうぞ、エド」


 サンフラワーの金髪をサラリと掻き上げて、アルメリアは細長い箱をエドガーに渡す。優しげな笑顔の裏に見える自信は、そのプレゼントがエドガーの所望だという確信があるからだ。


「見ても?」


 アルメリアは頷き、「どうぞ」と。

 紐を解きカパッと開けると……高級そうな素材の万年筆が入っていた。


「わっ、こんなの……いいのかい!?」


 それは、高そうという感想だった。

 普段のエドガーなら絶対に選ばない高級品は、シックなデザインだ。


「ええ、勿論です。わたくしが選んだのですから、受け取ってくれますよね?」


「それは、うん。嬉しいよ!丁度、新しいのが欲しかったんだ!」


 幼馴染の少年の笑顔に、アルメリアは勝ちを確信した。

 兄のアルベールの短剣など、エドガーが喜ぶわけはないとわかっている。

 問題はエミリア。アルメリアの目から見てもただの石ころにしか見えないが、エドガーに近い使い魔のメイドたち三体の反応を見て、不安を覚えていた。


「えーそうなんですかー」


 わざとらしい棒読みだったが、笑顔は崩さないアルメリア。

 この前エドガーの部屋に入り、万年筆がボロボロだったのを把握済みだったのだ。

 エミリアはそれを知っているので、「白々しぃ……」と口を尖らせていた。


「助かるよ、これだけ高級品なら、ペン先も丈夫だろうし……うん、いいね。これなら特殊な塗料で書けるかも!」


「え……特殊な?」


 アルメリアの笑顔が凍った。

 まさかの用途だったらしい。そしてただのインクでは飽き足らないらしい、この少年は。


「エドだなぁ」

「エドだねぇ」


 従業員とメイドたちの手によって次々と運ばれてくる料理。

 今日は【サザーシャーク農園】の野菜だけではなく、三兄妹の自腹で各種肉もある。成人しているアルベールや、使い魔の女性たち用の酒もだ。


「じゃ、じゃあエミリア……貴女の番ですよ?」


「あ……う、うん」


 若干引き気味に、アルメリアは妹に順番を促す。

 エミリアはギクリと身体を一度ビクつかせて、背に回していた木箱を見せた。


「エド、お誕生日おめでとう。これ、あたしが王都の行商人から買ったんだ……エドが一番喜ぶかなって。えっと、名前とか種類とかはわからないし、正直……あたしにも誰にも、価値はさっぱりなんだけどね……」


 ――コトン――


「な、なんだか凄く神妙な感じだねエミリア。そんなに凄いもの、頂いてもいいのかな?」

(こ、この感覚……魔力、だよな?)


 覚えのある感覚に対し、不安げにその箱を見るエドガー。

 サイズは男の両手の上に置けるくらいの大きさ。色は黒。ファンシーなリボンが結ばれている。しかしその感覚から、中身は【魔具】なのではと、エドガーは考えていた。


「開けてみて?」


「うん。じゃあ……」


 自分の正面に置かれ、謎の緊張感を持ったままエドガーは箱を開けた。

 カパリ……と、ゆっくりと。


「――っ!」


 ――ゾクリ――


 背筋に走ったそれは、悪寒に似たものだった。

 しかしそれだけではない。良縁、運命、そんな予感も含まれているような気配が、エドガーを身震いさせた。

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