Part7


 二日後――トラブルもなく、エドガーの誕生日当日が訪れた。

 場所は当然、【福音のマリス】。この日だけは食堂を貸し切りで、宿泊客も最低限に制限されている。主催者はロヴァルト家の三兄妹。宿が営業できない分の金銭まで保証してくれて、【福音のマリス】からすれば万々歳の案件だ。


「よし、準備は終わったな。三人も助かった、ありがとうな!」


「「「いえ、エドガー様のためですから」」」


 アルベール・ロヴァルトの感謝に、従業員として働く使い魔三体も笑顔を見せる。

 この宴の準備をしたのは、三兄妹とメイド使い魔三体、そして従業員使い魔三体、そしてメイリン・サザーシャークの、計四人と六体だ。


「飾り付け、綺麗ですね。エドも喜んでくれるでしょうか」


「勿論喜ぶに決まってるじゃん!五年ぶりだよ!?」


 椅子に座って紅茶を飲むアルメリアに、エミリアが鼻息荒く叫ぶ。

 一番張り切っているエミリアが用意したプレゼントは、豪勢な箱に仕舞われている。何度も確認し、箱まで周到に計算して整えた、最高のプレゼントだ。


「……“石”ねぇ。剣の方が何倍も良くないか?似たような物なら、エドは地下に山ほどあるじゃねぇか」


「そうなのですか?わたくしの万年筆の方が良いと思いますけど……」


 長テーブルに着席する面々は、既に準備を終え主役を待っている。

 メイリンがエドガーを迎えに行っているので、もうすぐだ。


「あたし地下に行ったこと無――はっ!!エドが来た!みんなっ!!」


「「「はい!」」」


 エントランスの扉が開き、メイリンが主役の背を押してやって来た。

 なんともやる気のなさそうな顔で、目を閉じて。


「……僕は忙しいんですけど……しかも目を閉じてとか、いったい何なんですか」


 目を閉じたまま不機嫌な声音で言う。

 メイリンに「まぁまぁ」と宥められているが……。


「わー、あからさまに不機嫌ですね……」


「ははは、エドらしいなー」


「ナスタージャの言う通り、探し物が見つからなかったからでしょ」


 三兄妹の声が聞こえたのか、エドガーは表情を和らげる。


「あれ、この声。もしかして三人もいる?どうして?って、目を開けても?」


 メイリンが「いいですよ」と笑う。

 そしてエドガーが目を開けた瞬間……盛大に。


「「「エド!十五歳の誕生日、おめでとう!!」」」

「「「「「「おめでとうございます、エドガー様!!」」」」」」


 三兄妹が初動として祝いの言葉を発し、使い魔の六体が満面の笑みで祝う。

 メイリンが若干遅れ、「おめでとう、エドガーくん」と笑顔を向けた。


「……は?あー……誕生日、そうか、今日は誕生日か」


 エドガーは少し照れたように笑う。

 自分の誕生日にすら無頓着の、趣味に生きる少年が歳を重ねた。


「やっぱり忘れてたか、エドらしいけどな。ほらよ、エド!」


「え――わっ!」


 ――ズシン――


 エドガーは思わず受け取った。

 その短剣が収められた鞘を。


「これって、短剣?アルベールからのプレゼント?」


「ああ、俺からのプレゼントだ。昔はよく、俺たち戦いごっこしただろ?おとぎ話のようにさっ」


 思い出して青ざめるエドガー。

 どうやらいい思い出ではないらしい。逆にアルベールの笑顔を見れば、思い出補正が真逆なのが伝わるだろう。そんな長兄のプレゼントが、本日の一番手だった……。

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