Part6


 メイドのナスタージャは、エミリアに質問を続ける。


「その行商人の風貌はいかがでしたか?」


「風貌?……普通だったわよ。見た目も聖王国人の特徴だったし、この“石”を格安で売るくらいだもの。余っ程お金に困っていたんでしょうね」


「それは確かに。で、おいくらでした?」


「金貨10枚、かな?」


 エミリアは自身の財布を確認しながら言う。


「じゅ……う枚!?たったそれだけぇぇぇ!?」


 ――シュババババ――


(……ナ、ナスタージャ……それはなんの合図ですか!!)


 少し先の屋根の上から、同じ【従魔】の誰かが文句を言っている。

 二人には聞こえないし、ナスタージャの驚きのフィンガーサインが雑すぎて通じていないが。


「いやいや高いくらいでしょ?だって“石”だよ?」


「そん!!い、いえ、そうですよね……」

(この国の人からすれば、そうなんでしょうね……ですが、これは金貨千枚クラスの宝石ですよ。こんな“石”を、たったの金貨十枚でだなんて)


 基準が違うとは言え、エドガーを始めとした価値を知る人物たちと、全ての“石”の価値を知らないこの【リフベイン聖王国】の人物。

 異世界から来た使い魔ならば知りうる、その“石”の価値。


「それはもうお金に困っていたんでしょうね……もしかして、逃亡資金だったり?」


「そ、そういう問題ですかねぇ……」


 もう一度、マジマジとその赤い宝石を見る。

 濃密な魔力は可視化され、そのオーラで変身が解けそうな規模だ。

 ヒリヒリとする肌は、微妙に鱗が薄っすらと見えていた。


「さ、そろそろ帰りましょ。あたしも、なーんでこんな場所に来ちゃったのか。とにかく、エドへのプレゼントには丁度いいと思うし」


(ヒィィィ……そんな軽々しく!!)


 ヒョイヒョイと赤い宝石を浮かせはキャッチ。

 その宝石の価値を知らないからできる暴挙だ。

 冷や冷やするナスタージャに埃を払ってもらいながら、エミリアは帰路に着くのだった。




「まったく、ナスタージャったら……」


 屋根から飛び降り、仲間からのフィンガーサインを再確認するのは、【従魔】のミュン。馬の使い魔で、この前エドガーに帝国の情報を報告した女性だった。


「行商人ですか。謎のフードの人物でもない……ただの商人。金に困った結果、とんでもないレベルの宝石を安価でエミリア様に売った……と」


 羊皮紙にメモを取りながら、主への報告書にする。


「ですが、そんな行商人いましたかね……セリーがいれば確認もできるんですけど」


 中央の国であるこの【リフベイン聖王国】には、東西南北から旅人や商人が出入りする。しかし、王国民らしいその商人が、わざわざ栄えた王都から出ていく理由がわからなかった。ナスタージャの報告から推測するが、ミュンは更にわからない。


「報告はするにして、あのフードの人物たちはどこへ消えたのか……セリーとファイが探しているはずですけど、果たして……どうなるか」


 ミュンは、早速【福音のマリス】へ向かうことにした。

 馬の姿になるのは、王都から出てから。最速でエドガーに知らせようと思ったが……。


「――あ。こ、これではエミリア様のプレゼントがバレてしまうじゃないですか!!わ、私は……どうすればぁぁぁぁぁ!!」


 最優先はエドガーだ。しかしエミリアも、エドガーの大切な存在。

 ましてや、エドガーがあの宝石を受け取って喜ぶ姿が想像できる……ならば。


「よ、よし。エミリア様がプレゼントを渡してから報告しよう……そうしよう。後二日だし、大丈夫……のはず」


 そう考え、ミュンはまず仲間と合流することを選ぶのであった……。

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