Part6
メイドのナスタージャは、エミリアに質問を続ける。
「その行商人の風貌はいかがでしたか?」
「風貌?……普通だったわよ。見た目も聖王国人の特徴だったし、この“石”を格安で売るくらいだもの。余っ程お金に困っていたんでしょうね」
「それは確かに。で、おいくらでした?」
「金貨10枚、かな?」
エミリアは自身の財布を確認しながら言う。
「じゅ……う枚!?たったそれだけぇぇぇ!?」
――シュババババ――
(……ナ、ナスタージャ……それはなんの合図ですか!!)
少し先の屋根の上から、同じ【従魔】の誰かが文句を言っている。
二人には聞こえないし、ナスタージャの驚きのフィンガーサインが雑すぎて通じていないが。
「いやいや高いくらいでしょ?だって“石”だよ?」
「そん!!い、いえ、そうですよね……」
(この国の人からすれば、そうなんでしょうね……ですが、これは金貨千枚クラスの宝石ですよ。こんな“石”を、たったの金貨十枚でだなんて)
基準が違うとは言え、エドガーを始めとした価値を知る人物たちと、全ての“石”の価値を知らないこの【リフベイン聖王国】の人物。
異世界から来た使い魔ならば知りうる、その“石”の価値。
「それはもうお金に困っていたんでしょうね……もしかして、逃亡資金だったり?」
「そ、そういう問題ですかねぇ……」
もう一度、マジマジとその赤い宝石を見る。
濃密な魔力は可視化され、そのオーラで変身が解けそうな規模だ。
ヒリヒリとする肌は、微妙に鱗が薄っすらと見えていた。
「さ、そろそろ帰りましょ。あたしも、なーんでこんな場所に来ちゃったのか。とにかく、エドへのプレゼントには丁度いいと思うし」
(ヒィィィ……そんな軽々しく!!)
ヒョイヒョイと赤い宝石を浮かせはキャッチ。
その宝石の価値を知らないからできる暴挙だ。
冷や冷やするナスタージャに埃を払ってもらいながら、エミリアは帰路に着くのだった。
◇
「まったく、ナスタージャったら……」
屋根から飛び降り、仲間からのフィンガーサインを再確認するのは、【従魔】のミュン。馬の使い魔で、この前エドガーに帝国の情報を報告した女性だった。
「行商人ですか。謎のフードの人物でもない……ただの商人。金に困った結果、とんでもないレベルの宝石を安価でエミリア様に売った……と」
羊皮紙にメモを取りながら、主への報告書にする。
「ですが、そんな行商人いましたかね……セリーがいれば確認もできるんですけど」
中央の国であるこの【リフベイン聖王国】には、東西南北から旅人や商人が出入りする。しかし、王国民らしいその商人が、わざわざ栄えた王都から出ていく理由がわからなかった。ナスタージャの報告から推測するが、ミュンは更にわからない。
「報告はするにして、あのフードの人物たちはどこへ消えたのか……セリーとファイが探しているはずですけど、果たして……どうなるか」
ミュンは、早速【福音のマリス】へ向かうことにした。
馬の姿になるのは、王都から出てから。最速でエドガーに知らせようと思ったが……。
「――あ。こ、これではエミリア様のプレゼントがバレてしまうじゃないですか!!わ、私は……どうすればぁぁぁぁぁ!!」
最優先はエドガーだ。しかしエミリアも、エドガーの大切な存在。
ましてや、エドガーがあの宝石を受け取って喜ぶ姿が想像できる……ならば。
「よ、よし。エミリア様がプレゼントを渡してから報告しよう……そうしよう。後二日だし、大丈夫……のはず」
そう考え、ミュンはまず仲間と合流することを選ぶのであった……。
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