Part5


「――ア様――リア様!――エミリア様!!」


「え……っ!?へ?」


 その大きな声と、両肩を掴まれて揺さぶられる感覚に……意識を戻す。

 周りを見渡すエミリアは、貴族街の家の外壁にへたり込んでいた。

 そんなエミリアを起こしたのは、エドガーの使い魔であり、ロヴァルト家のメイド……蛇の【従魔】、ナスタージャという女性だった。


「え……ナ、ナスタージャ……?」


「はい、ナスタージャですよ。まったく、まさかこんな場所で居眠りだなんて……奥様が知ったら泣きますよ?探したワタシの身にもなって欲しいですねー」


「ね。寝てた?あたしが……こんな場所で?」


 再度キョロキョロと周囲を見渡すエミリア。

 まるで前後の記憶が無いように、戸惑いの表情をメイドに向けていた。


「あーあ、ボケちゃったんです?エミリアお嬢様。エドガー様は賢い女性が好きなはずですけど」


 呆れたようにエミリアを見るナスタージャ。

 ハンターグリーンの髪は真っ直ぐのストレート。薄水色の瞳は鋭く、一睨みで竦みだす人物もいる視線の強さを持つ。

 ロヴァルト家ではエミリアの専属メイドとして働き、たまに【福音のマリス】へ帰ってはだらけている。


「失礼ね、おっちょこちょいメイド!エドはそんな些細なことを気にしないわよ!元気で可愛い娘が好きって言ってたもん!!」


 むくれるエミリアを見て、ナスタージャは「可愛い……(笑)」と口にする。

 エミリアを立たせ、臀部の土をポンポンと払ったナスタージャのは気付く。


「あ、あれ……エミリア様、それ・・なんですか?」


「え?あ……ああ、これね」


 エミリアはナスタージャに見せるように、その赤い石・・・を手のひらに乗せる。少女の小さな手に乗る、赤く輝く【輝石】……【聖石】を。


「うわぁ……すっごいですね、これ」

(ヤバ……なんて濃密な魔力。これ、あの方たちの【聖石】にも匹敵するけど……)


 ゴクリと、ナスタージャの喉が鳴った。

 エミリアには魔力関連のことを言わないが、それでも感じる異常な魔力に、肌がビリビリとし……その結果。


 ――ペリッ――


「だっ!!し、しまった皮膚が……」


「え?」


 ナスタージャは急いで服の袖を引っ張り、腕を隠した。

 彼女は蛇の【従魔】。高密度の魔力に反応し、蛇の鱗を出現させてしまったのだった。エミリアやアルメリアたち、ロヴァルト家の人間はそれを知らない。

 エドガーは軽く伝えているらしいが、おそらく信じていないのだ。

 動物に変身する場面を見せれば信じる可能性もあるが、しかしそれはしない。


「い、いえいえ、なんでもないですよ〜、あははははっ。凄い“石”ですね、もしかして、エドガー様へのプレゼントですか?お嬢様」


 ナスタージャは隠すようにしながらも、エミリアに問う。

 彼女はロヴァルト三兄妹の、エドガーへのプレゼント作戦を知っている。使い魔たちに説明をしたのも彼女なのだし。


「まぁね。行商人から買ったのよ、これ」


「行商人ですか?この王都で?」


 ナスタージャは不自然に指先を空中へ向けた。

 エミリアはその指を見ているが、意味はわからないだろう。

 これは、ナスタージャの爪先の光を使った……遠くへの知らせだ。十二体の使い魔、【従魔】だけが理解できる暗号。


「そ。なんでも、事業に失敗して聖王国から撤退するらしいのよね、それで……どうしても急いで資金が必要だったんだってさ。それでこの宝石を、格安で譲りたかったんだって」


 ――シュバシュバシュバ――


「なるほど。行商人なら確かに……それで、その行商人は?」


「さっきから何その手。まぁいいけど……行商人はもう、んーあれ?もう国を出るって言ってた気もするし、まだ王都にいるって……ん??」


 自分の言葉に自信がないのか、エミリアは顎に指を当てて考える。

 ナスタージャは同僚に暗号を送りながら、エミリアに対して問いを投げかけた。

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