Part4
その異質とも判断できる声に、エミリアは思わず足を止めてしまった。
男かも女かもわからないような、中途半端な高さの声。その声の持ち主は、黒いフードを目深に被りエミリアに向けて、チョイチョイと手招きをする。
怪しすぎる風貌と仕草に戸惑いつつも、エミリアの足は自然とそちらへ向いていた。
「……なに?っていうか誰?こんな暗がりで、まさか商売をしているだなんて言わないわよね?不審者だったのなら……っ!捕まえて衛兵にっ!!」
エミリアとて騎士の端くれ。王都の中で怪しい人物を見つけたら、当然のように警戒はする。肩に掛けた長ケースを手に取り、中から簡素な槍を取り出して警告する。
「――おっと、これは怖い怖い。安心なさい、ボクは商人ですよ……残念ながら、弱小すぎてこんな路地裏に追いやられた、貧乏商人ですけどね?」
「はぁ?貧乏……まさかほ、本当に商売を……?こんな薄暗い場所で?」
エミリアは思う。「こんな場所でどんな商品を売ろうって言うのよ」と。
しかしそれと同時に興味も出てしまった。そしてそれが……敗因である。
「ふふっ。よくぞお越しいただきましたお客様。ボクは商人、お金に困っている可哀想な人間です。商品内容は、【石売り】……ええ、きっと貴女が望む、【輝石】の販売を主流にしている商人ですよ」
「……き、【輝石】……??」
フードの人物は両手を大きく広げた。
それでも、裾の長い袖からは指先も出ていない。
全身を覆うローブのフードは黒く、目深で顔も覗けない。そして路地裏の暗がりが、その姿を完全にカモフラージュしていた。
普段なら、エミリアも「顔を見せなさい」と求めるだろう。しかし、その空気が、望んでいた展望が訪れたことで、それを失念させた。
「さぁさ貴族のお嬢さん。貴女が望むのは……これ、でしょう?きっと彼は喜ぶはずだ、何せそれは……彼が持つに相応しい代物なんだから」
「エドに……相応しい……」
心に沁み込むような言葉は、スッとエミリアの警戒心を解いた。
自然とそちらへ向かう足に意識はなく、光を失くした青い瞳は、商人が紹介しようとする物を今か今かと待ち望んでいるように。
「さぁ、購入してくれますかな?この惨めに金策をする、大馬鹿商人の逸品を……現品限り、世界に一つ、この国以外では大金をはたいても買えない。そんな品」
「世界に、一つ……あ、あたし……は」
エミリアは路地裏の奥に、それを見つけた。
探し求めた、大切な幼馴染への贈り物。
フードの商人がわざとらしく差し伸べるようにして見せる、その赤い赤い、吸い込まれるように綺麗な――“石”を。
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