Part3


 既にプレゼントを決めていた姉に対し、妹のエミリアは頬を膨らます。


「むーーー。いいもんいいもん、あたしだって、すっごいプレゼントを用意しちゃうから!!」


 気合を入れるエミリア。

 薄い胸をトンッ――と叩いて、エドガーが最も喜びそうな品を探すと決めた。


「……んじゃ、俺は剣でも贈るかなー」


「エドは剣なんて絶対に喜ばないって……」


「うーん。喜ぶ姿は想像できませんよ、兄さん」


 妹二人に全否定される兄。しかしアルベールとて、幼馴染の少年と共に遊んだ記憶がある。そのときには、確かに木剣を持って冒険の真似事をしたものだ。

 それこそおとぎ話の英雄譚のように、自分が勇者だと思い込んだ少年の記憶である。


「いいだろ別に。アルメリアが言ったんだ、気持ちだろ気持ち!これが俺の気・持・ち、なんだよ!」


「まぁ別にいいけどね」

「まぁ、兄さんがよろしいなら」


 このような感じで、三兄妹による“幼馴染誕生プレゼント会議”は終了した。




 翌日、次女エミリアは一人、【王都リドチュア】の商店街をウロチョロしていた。


「ちっ」


 初っ端から舌打ちをし、店を出たエミリア。

 お目当ての商品が見当たらず、不機嫌な態度を取ってしまった。

 本来なら良客であり、お金も落とす最上級貴族……それが、好いた男が関わると途端にこれだ。店主にも勘弁してあげて欲しい。


「あぁーあ、でもどうしよっかなぁ……昨日姉さんも言ってたけど、やっぱり……」


 エミリアが視線を移したのは、路地裏だった。

 ここは貴族街ではあるが、商店の裏側……簡単に言うと芥溜ごみだめだ。

 ゴミ拾いで有名(悪名)なエドガーなら、問答無用で入っていくだろう。しかしエミリアはこれでも貴族……これでも・・・・貴族だ。


「ゴミが良いのかなぁ……エド」


 腕組みをしても乗らない胸の内を、そのまま口にする。

 一般人が言うゴミは、エドガーにとっての【魔具】。一番喜びそうと言えば、その通りだった。しかし何度説明されても、エミリアにもアルメリアにも、勿論兄のアルベールにも、エドガーの趣味だけは理解できない。

 どう見てもなんの役にも立たないゴミを集め、それを宝のように目を輝かせる幼馴染。彼が少しおかしいのだと、そういう認識で関わってきた彼女たちだが、それを覆すほどの関係性が構築できていることだけが、幸いだろう。


「無難に鞄とか?服もいいけど……エドはいっつもあのコートだしなぁ」


 エドガー云わく、そのコートは【召喚士】の一張羅だそうだ。

 ボロくはないが、別段新品でもない。どちらかと言えば年季の入ったヴィンテージに近い。服を購入して贈ったとしても、着てくれない未来しか見えなかった。


「はぁぁぁー……」


 エミリアは、今日は諦めて帰ることにするのだった。




 路地裏の影、そこからカナリーイエローの金髪の少女を見る人影がいた。


「へぇ、あの娘か……」


 肩をガックリと落とし、トボトボと貴族街の方角へ足を向ける少女に、その人物は声をかけることにした。


「――お嬢さんお嬢さん」


「!!……えっ、え?」


 小さな背丈の少女を見据えた瞬間、その男とも女とも取れる声音の人物は、深く……フードを被り直した。

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