Part2


 末妹のエミリアが兄姉を責めるのは、単に内容の一致を避けるため。

 しかしそれで責められては、兄のアルベールも姉のアルメリアも、言われ放題ではいられない。


「おいおい、なら俺等を責めるのはお門違いだろーが!何が意味ないじゃんだよ、お前も決まってないんじゃねぇか……はぁ」


「そうですよ、エミリア」


 アルベールは、呆れたように前髪を掻き上げた。

 アルメリアは優雅に紅茶を口にしていた。

 兄の小さく吐いたため息の音は、エミリアの耳にしっかりと入り、ムッとさせる。

 しかし反論もできない。


「別に姉さんを責めては……そ、それに!!あたし……エドの五年振りの誕生日を、ちゃんと祝ってあげたかったんだもん!もう五年だよ、五年!本当は、毎年祝いたかったぁぁぁ!!」


 膨らませた頬は小動物のように、その視線は細められ、兄姉を見る。

 二人も理解しているからこそ、慎重にいたのだが……。


「それはわたくしたちも同じですよ、エミリア」


「ああ。勿論そうに決まってるさ。エドは俺たち兄妹に、何度も大切なものをくれたんだからな」


 エドガー・レオマリスが不遇職業と定められる前から、この兄妹はエドガーと幼馴染だ。彼が生まれたときから、三人は彼を、末っ子の弟のように見ているのだから。

 そんなエドガーは、不遇職業となってから五年間、誕生日を始めとした祝い事を避けていた。流石に五年、そろそろいいかなと、エミリアたちは決行を決めたのだが。


「そうですね。ですので、わたくしはこれにしました……」


「え?」

「あ?」


 長女アルメリアは、フッと笑みを見せてテーブルに何かを置いた。

 それは細長い小箱。何かが入れられているであろう、高級な箱だった。

 そして二人は気付く。先ほどまでの会話で、アルメリアが言葉を発していなかったことに。


「ね、姉さんはもう買ってたんじゃん!!」


「ズ、ズリィな……」


「ふふっ、これは万年筆です。この前エドの家にお邪魔した時、筆がボロボロになっていましたので」


「……姉さんそういうところあるよね。エドの部屋調べたでしょ……」


 アルメリアは笑ったままピタリと固まる。

 理由は様々だが、一つは確実に、聖王家からの監視が理由だ。

 エミリアはそれに気付かないが、アルベールは気付くだろう。


「ま、いいじゃないかそれくらい。エミリアだって、エドの部屋に行ったらジロジロ見るだろ?」


「ジ、ジロジロは見ないし!!そっとだし!」


 見ているのは変わらないらしい。

 後味悪そうに、エミリアはアルベールから視線を外してアルメリアに言う。


「それ、王都の高級店でしょ?エドは高級思想の物は受け取らないんじゃない?」


「いいのです。わたくしが渡したいのですから、ようは気持ちですよ」


「それは値段がかかってねぇときの台詞だな」


「ホントだよ!」


「ふふふっ」


 兄妹、それぞれ考えは違うが思いは一緒だった。

 【聖騎士】を目指したのも、本を正せばエドガーのため。

 しかしそんな【聖騎士】の仕えるべき主は、【召喚士】の監視を命じた。

 板挟みのロヴァルト三兄妹は、それでも諦めない……。

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