Part9


 エドガーが決意を固めた日から、あっという間に数日が経過した。

 エドガーは【従魔】のサポートを受けながら、【七つ木の森】の各エリアを探索していた。しかし思った結果は得られていない。決意とは裏腹に、思った通りには進まないのだ。


「最近……エ、エドガー様が不機嫌です〜」


「だ、だね。【聖石】の欠片も、ちょっとだけ濁ってて美味しくない……集中力が欠けてしまっているからですね、多分。頂けるだけでも、嬉しいんだけどね」


「ん……残念。無念」


 三体の従業員の使い魔、順にメジュア、ホリィ、ウェンディーナが食事をしながら会話をしていた。【輝石の流砂】を凝固させた【聖石】の欠片は個数が制限され、その代わりに、野菜を食べている。生で。


「そう言えばロヴァルト家の方々も、この数日は誰も来ませんでしたね」


「きっと忙しいんですよ〜」


「……当然」


 ――バリボリ――

 ――バリボリ――


「何が当然ですか。理由を述べてくださいよ」


「み、見てない。聞いてない。言わない」


 ホリィの言葉に、ウェンディーナはそっぽを向いた。

 猿の【従魔】であるウェンディーナは、順に目、耳、口を隠すように手を当てた。


「言わないというなら知っているんですね〜?も〜〜〜、いいんですか〜?」


 牛の【従魔】であるメジュアが、糸目を更に細くしてウェンディーナを見ている。

 細くなっているかは、正確にはわからないが。


「あーそう言えば、ナスターシャが戻って来ていましたもんね。そのときに聞いたんでしょう」


 羊の【従魔】のホリィは、巻角を撫でるように答えを言う。


「……」


「無視ですかそうですか、ならばエドガー様に報告を――」


 ホリィのニヤリと笑った笑顔に、ウェンディーナは視線を逸らしたままだ。しかしホリィのその笑顔の意味を知っているからか、白状を始める。


「い、いや。そう言えば、ナスタージャはエドガー様の生誕のことを話していた」


「生誕?あ〜、もうすぐ誕生日ですものね〜。生まれた日なんて知らないアタシたち【従魔】には〜、関係ないですけど〜」


「ナスタージャはおしゃべりだからね……きっと普通に会話しているつもりで、悪気はないんでしょうけど」


 ナスタージャとは、ロヴァルト家に奉公に行っている【従魔】の一体。

 彼女は蛇の【従魔】であり、エミリアを担当しているメイドだ。

 そのナスタージャが【福音のマリス】へ訪れ、ロヴァルト家の三兄妹の計画を漏らしたそうだ。


「ナスタージャは~~、お仕事も失敗ばっかりだそうですよ~~?」


「……駄メイド」


 いわゆるドジっ子メイド。

 エミリアのメイドとして機能しているのか疑わしくなるレベルらしい。


「ま、まぁクビになってないですし。フィルウェインやアリカもいますから……」


「時間の問題」


 ホリィとウェンディーナは笑う。

 しかしメジュアが一言。


「そんなこと言って~~、アタシたちの誰かだって~、ここをクビにされるかもですよ~~?」


「「「……」」」


 三体、無言になる。

 それぞれ失敗もするし、エドガーに一番近しい場所で働く【従魔】ではあるが、その地位は安泰ではないのだ。


「と、とりあえずは秘密にしておきましょう!エドガー様の誕生日!」


「そ、そうね~」


「さ、賛成」


 来たる、土の月21日(5月21日)。それこそがエドガー・レオマリスの誕生日。

 【召喚士】の少年が十五歳になる誕生日、物語は、そこから加速する……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る