Part4


 エドガーは【福音のマリス】を出て、森の南東にある平原エリアに向かう。

 そこは元々森林だったが、エドガーが五年間開拓をして平原とした。

 その際に伐採した木は、素材として【福音のマリス】の地下に保管されている。

 勿論、木材だけではなく、その他の素材……ゴミと呼ばれる物もそのまま保管しているわけで、エドガーはそういう物も含めて、宝と呼ぶ。


「ここも随分と広くなった。これだけ広ければ、避難先にも丁度いいし、子供たちの遊び場にもなる……そうなると、遊具が欲しくなるけど」


 平地になったこの場所は、最初は適当に始めた伐採作業のついでだった。

 しかし思った以上に広くなり、時間を経て草木が生え始めると……草原、平原と呼ばれる規模の土地となったのだ。

 当然、各地の本物と比べれば狭く、観光地としては最適ではない。しかし素材採集や運動場としては最適だろう。


 エドガーはしゃがみ込み、生えていた草を摘んで確認する。


「この【ゴワムの草】、たったの二週間もかからず生えでるし、潰すと出てくる液体は粘度が高くて、ブニブニの皮のようになる」


 そのブニブニは装備の留め具や建物の緩和剤にも使える。

 【福音のマリス】の建築や、エドガーが召喚した装備品など、日常で使う品にも多く使われている。


「でも、王都の人たちには理解されないんだよなぁ……はぁ〜」


 困ったことではないが、自分だけが理解しているのは辛いところがある。

 何を言っても妄言だと、虚言だと、おとぎ話を信じる大馬鹿者だと言われ、それでも魔力や魔物の存在を提唱してきたが、結局誰も信じなかった。


「諦める……か。それでも僕は、この退屈な世界に彩りを、豊かさと発展を求めたい。僕が異世界から召喚した彼女たちや、【従魔】たちが教えてくれたことを、そのまま世界に広めたい。このままじゃ、いずれ他の国との差を知らしめられる……そうなれば、笑い者じゃ済まない」


 【ゴワムの草】を抜き、次々と腰の網籠に摘んでいく。

 ひょいひょいと、小言を言うようにして、エドガーは黙々と作業をした。

 本人は気付かないが、そういったときは基本的に無意識でもある。そう、そんなときこそ、独り言や不気味な笑い声が響き渡るわけで。


「だからこそ、僕は言い続けるんだ。魔力は存在するし、魔物は実在した驚異的な事実!!おとぎ話の英雄も、歴史も、他の国では史実として語られ……くくくっ、ふふふふふふふふふふふふふふ……あはははははっ!」


 森の南部にある林道は、【王都リドチュア】からの客が【福音のマリス】へ向かうためのエリアだ。馬車は森の入口までしか入れず、そこからは徒歩になる。

 森の木々は目の保養にもなり、一種の癒しスポットであるらしい。

 しかし、この少年の笑い声は響く……特に夜は空気の冷えもあって木霊するように反響するとか。そう、こんな感じに……。

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