Part3


 男たちの会話を聞きつつも、エドガーは半分眠たくなって来ていた。

 しかし欠伸を噛み殺して続きを待つ。


「それがよ、信じたそうだぜ?」


「マジかよ」


(ど、どうしてそうなるんだ!?)


 そしてその噂を信じた結果、こうして【七つ木の森】に訪れる人が増えた可能性もある。噂の出どころは怪しすぎるが、エドガーの懐が潤うのは悪くない。


「ラドックの奴はこう言ったんだ。『【召喚士】はもういねぇ、だから【七つ木の森】には行かねぇほうがいい。呪われるぞ!!』ってな」


(の、呪わないよ!!というか呪いってなんなんだよ!!)


 段々と苛立ちを感じそうな会話になってきて、エドガーは退席しようかと考えた。

 しかし、次の会話に考えを改める。


「――【七つ木の森】の呪い。悪しき女の呪言じゅごんってヤツだな……」


 ピクリ――と、エドガーは退席の動きを止めた。

 その言葉も意味も、心当たりしかない。

 悪しき女、呪言。それは五年前から……エドガーの傍にあり続けたものだからだ。


(まさか……傍にいるのか、彼女・・が)


 エドガーは、その会話の途中で席を立った。

 そのまま食堂を出てエントランスに向かい、フロントで笑顔を固めるメイリンに一言掛け、そして外に出ていく。


「ふぅ……もう傍にはいないと思っていたけど。そっか……まだ、近くに」


 一人、空に手を向け……懐かしさと悔しさを同時に思い出す。

 五年前にエドガーが【不遇召喚士】となった事件……その関係者、三人の――異世界人・・・・


 当時十歳だったエドガーが異世界から召喚した、絶大な力を所持する女性たち。

 噂の悪しき女というのは、その一人だろうと予測ができた。


「あーそうか、僕は王都に滅多に行かないから……」


 五年間、王城に呼ばれたときと、知人である【鑑定士】の店にしか用がないエドガーは、それ以外は王都に近寄りもしない。

 だからその噂を知ることも、彼女の気配を察知することもなかった。


「捨てたものじゃないね、不遇職業も」


 ニッ――と笑う。道を違えて五年、ひょんなところから……いなくなった彼女たち三人の痕跡を、初めて手に入れた。

 それは十歳のエドガー少年が求め続けた、一筋の光。

 その些細な情報だけでも、エドガーには充分だった。


「……召喚、そうか。使い魔としての召喚は十二体が限度だとしても……彼女たちのような、異質な存在なら、あるいは!」


 思い至らなかった。失念していたわけではない、ただ……考えたくなかったのだ。

 五年前の別れも、その過程も、そして結果も。

 それだけの事件だったと、悲しみだったと記憶があったから。

 だけどこの状況で、まだ彼女たちの存在がエドガーを再起させる。


「やる価値はある。だからこそ、必要なのは……【輝石】だ。あの三人と同等の力を持ち、おとぎ話が真実だと証明できる――」


 そこまで口にし、五年前の記憶がフラッシュバックする。

 脂汗が湧き出るように、指先が震えるように、その大惨事が思い起こる。


「……くっ……!い、いや躊躇するなエドガー。僕は【召喚士】だ……召喚して何が悪い。そのために王都を出たんじゃないか!」


 かぶりを振るい、エドガーはトラウマを振り切るように再度口にする。


「やってしまえば、もう止められない。やるんだ、僕にしか出来ない――【異世界召喚】を」


 拳を握り、例えまた同じ結末になる可能性が出ようとも、エドガーは決意する。

 傍にいるであろう、かつての大切な人たちのために。

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