Part2


 労働者は会話を始める。

 エドガーは聞き耳を立て、有益な情報が無いか期待する。

 しかし聞こえて来たのは……。


「この森の噂だよ噂。王族の決めた、【召喚士】のが出るってやつ」


「あー、なんかあったな」


(……僕はいつの間に死んだことになってたんだ)


 肩をズルっと滑らせて、エドガーはスープを溢しそうになる。

 いつのまにか、【召喚士】は死んで霊になっていたらしい。


「なんでもよぉ、森に入ると聞こえる不気味な声があるだろう?」


「おう、今朝は聞こえなかったけどな」


(そりゃあね、僕は今日、溝浚どぶさらいをしていないし)


 エドガーは二人の格好を確認。

 作業服のような格好に、腰には仕事道具を入れる革袋が。

 その他にも、肩の手拭いや手袋などから、「組合の人間だな……」と納得。

 二人は、【王都リドチュア】の大工組合に所属する人間らしい。


「ラドックの奴に聞いたんだがよぉ、どうも【召喚士】ってのは、安く大工道具を売ってくれていたらしくてなぁ」


「安くって、あの暴れ者で有名なラドックにかぁ?アイツのことだ、適当なことを言ってたんじゃねぇのか?」


(なるほど、あのひとか……僕を勝手に殺したのは。しかし、召喚を商店かなにかだと思われていたのは癪だなぁ)


 その名はエドガーもよく知っていた。

 彼は狡猾で有名だった。粗暴で喧嘩っ早く、しかし大工の腕は確か。

 そんな男は、食事に来ていたときにエドガーに気付いた。どうやら王都に住んいた頃を知っていたらしく、そのラドックという男は……エドガーに対して大工道具の召喚を望んだのだ。


「いやいや!前にアイツの道具を見ただろう!?いつ見ても新品同然、それもいくつも持ち歩きやがって、俺たちに何度見せびらかしてきたか!」


「あーー、確かにウザかったなぁ」


「だろう!?そんな道具の自慢ばっかするあの馬鹿が、酒の席でこう漏らしたんだよ……『【召喚士】のガキは、知恵あたまもねぇから騙してやるのが簡単だった、組合から支給される金額の半分以下の金で道具を購入できるんだ』、ってよ!」


「……マジかよ、ラドックの奴、まさかその金」


(悪かったね学のない人間で。しかしまぁ……やはり見た目通りの男だったと言うわけか、約束も守れないような男に、今後は召喚してやる義理もないね。それにしても、ラドック・コレダーは組合からの金を横領しているってことになる。そんなことに利用されるのは、本意じゃないな)


 そもそもエドガーは、召喚の練習になるからと依頼を受けたのだ。

 木槌なら、そこら辺の木や木片を触媒にすれば簡単に召喚できる。鉄製の槌ですら、エドガーの魔力を多めに使用すれば可能だった。


「だろうな。だからそれが組合にバレて、騎士団にしょっ引かれたようだぜ?」


「自業自得だろ。噂の【不遇召喚士】がどれだけ使い勝手の良いガキだったとしても、自分が犯罪を犯してちゃあ意味がねぇ。しかも死んでるとかぬかしたんだろ?」


 ラドック・コレダーが最近訪れない理由を知り、エドガーは少し意外そうにする。

 召喚の練習という点だけでは、彼は客の価値があったのだが……まさか犯罪を重ねているとは読めなかった。


(なんだ……捕まってるじゃないか。それで、どうして僕は死んでるんですかね?)


「おお。それでよぉ、ラドックの馬鹿、檻の中で兵に言ったらしいぜ……【召喚士】はもう死んだ!ってな」


「がははっ!!おいおい、そんなの信じるのか?」


(そもそも、その噂はどこから来たのさ……まるで自分が犯人と言っているようで、アホ臭いよ)


 半ば呆れるエドガー。実入りのない会話に辟易しつつ、スープを完飲した。

 背伸びをするような仕草で身体を伸ばし、続く会話を聞く。

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