第03話『これが、聖王国の召喚士』全9Part
Part1
翌日、【福音のマリス】の営業が始まると、早朝から食堂への来客が増え始める。
朝食は、特別珍しい物が提供されるわけではない。しかしこの人気、【サザーシャーク農園】の野菜は、それだけ上質で味わい深く、民を魅了する食材だった。
「わざわざ朝から、馬車を使ってまで朝食を食べに来ているのか……凄いな、王都の人たち」
【七つ木の森】の道中、馬車は侵入できない。
森の入口からは徒歩と決められ、それを皆守っている。
昨夜のロヴァルト姉妹を迎えに来たメイドも、途中までしか馬車を使用していない。
「うわ、またぞろぞろと……よく働くねぇ、王都民の皆々様」
エドガーは本日、食堂にて一般客に紛れて食事を取っていた。
しかし朝も早くからこうして自分の宿に来てくれている客にも、エドガーは他人事だった。本日のメニューは野菜のスープに焼きたてのパン。
パンはメイリンが、日の出前に出勤して、厨房の窯で焼いたものだった。
「……(パクリ)」
パリパリと、焼き立ての食感と香ばしい香りを堪能する。
食感はフワフワモチモチで、中からチーズがとろりと溢れ出す。
「うん。正直、これだけでも元が取れるんだよね」
このパンの小麦は西の国、【魔導帝国レダニエス】産の物だ。
東西南北の国で最大の領土を誇る西の帝国は、枯れた土地として不名誉な有名さを持っているが、その枯れた土地でも育つ力強い農産物が特徴だ。
このパンの小麦も、その一つ。
「――エドガーさ……ゲフンゲフン!お、お客様、オ食事はイカガデスカー?」
ミルキーホワイトの白髪を巻き髪にした従業員が、エドガーに恐る恐る尋ねる。
わざとらしい態度は、今朝方エドガーがそうしてくれと頼んだからだ。が……とても棒読みだった。
「……うん、美味しいです、とても」
(ホリィ、もう少し自然体でいいから……これじゃあ客に紛れて情報収集するなんてできないだろう?)
「す、すみません(小声)」
エドガーはたまに、こうして客に紛れて聞き耳を立てている。
勿論、不遇職業である自分を隠すための変装をして、バレないようにだ。
今日はフードを目深に被り、茶髪と黒眼を隠していた。
エドガーとホリィが小声での会話をしていると、隣の席から早速情報になりそうな会話が聞こえて来る。その二人は王都の民だ……風貌から、おそらく大工のような、力仕事をする職業だと思われる。
「そういえば聞いたかよ」
「なぁにをだよー」
エドガーは聞き耳を立てつつ、スープを掬って口に運ぶ。
反対の手でホリィにシッシッと退席を促し、聞き耳を続ける。
ホリィは残念そうにペコリと頭を下げて退席。「うぅ、やってしまった」と、棒読みを反省しながら去って行った……。
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