Part7


 【従魔】である彼女等。使い魔の女性たちの主な食事は基本人間と何ら変わらない。しかし、存在を続けるために必要な物がある。それが、先ほどエドガーが言った……魔力・・だ。


「わぁ〜!エドガー様が整えてくれた【聖石】の欠片です〜」


「ははっ、形は不揃いでブサイクだけどね」


「そんなことないですよ、エドガー様の魔力が込められたことで、どんな石よりも美味しい・・・・んですから!!」


 メジュアが嬉しそうに両手を合わせ、その欠片を見て言う。エドガーは少し照れながらも謙遜し、ホリィがその謙遜を否定する。

 真面目そうなホリィは【福音のマリス】の接客と会計を担当し、今もスタッフルームで帳簿をつけていた最中だ。ミルキーホワイトの髪の間から巻角が見え、普段は腰まである髪をお団子にしてまとめてある。モコモコであり、顔よりも大きい。


「少なくて悪い。他の【従魔】たちの分もあるからさ……」


「い〜え〜。あたしたちは〜普段からエドガー様のお傍にいるおかげで〜、こうしてしょっちゅう食べられますし〜、メイドとして奉公している三人も〜、旅人として活動している三人も〜、国内で情報収集している三人も〜、たまに帰ってきては食べてますし〜」


「メジュア……そのふわ〜んって喋り方直さない?」


「え〜〜、普通ですけど〜」


 二体の会話を聞いているのかどうなのか、もう一体。

 ひょいっと欠片を取って口に運ぶ雌黄色しおういろの髪の女性。


「……美味!」


 カリカリと音を鳴らし、エドガーが持ってきた【輝石の流砂】を凝固させた物……【聖石】の欠片を食べた。


「あ゙っ!ウェンディーナ!ズルいわよ一人だけっ!」


「そうです〜、ズルいです〜!」


 二体の女性も後に続き、トレーに集まって夢中だ。

 エドガーは「おっとっと」と弾かれ、苦笑しながらスタッフルームを出る。

 ワイワイと石の欠片を口に頬張り貪る姿は、確かに人間ではないのだろう。


「さてと、次はっ……と」


 魔力補給という名の食事を使い魔たちにさせて、エドガーは自室のある併設家に戻る。戻る際、本日分の帳簿をホリィから預かってきた。

 部屋に入り椅子に座ると、その帳簿をペラリと捲り確認する。


「今日の客入りは……っと。うん、やっぱり北からの旅行客が多いな」


 北国【ルウタール王国】。

 山岳地帯が多いその国は、金属鉱山と農林業で栄えている。

 国民は運動をこよなく愛する国民性で、よく足を使う移動を好む。そうして南部の国……【リフベイン聖王国】に旅行をしに来るのだ。

 【王都リドチュア】は聖王国で最も栄えた都だ。そこは大陸中央の国であり、東西南北から人々が訪れる公益の拠点でもある。


「王都からの人は、やっぱり食堂利用が多いな。大浴場の利用も多い……最初は、熱いお湯に入るなんてと言われてたけど、その癒し効果が知れ渡れば簡単だ」


 ホリィのつけた帳簿を見ながら、エドガーは本日の売上げを確認。

 通常の宿泊部屋は、一泊銀貨二枚。素泊まりで銅貨八枚だ。

 大浴場の利用は、男女ともに銅貨三枚。食堂は自由に出入り可能で、当然食事代はかかる。


「大浴場の利用客が三十九人、食堂の売上げも上々……宿泊も十二組。ま、これだけでも充分に生きてはいけるけど」


 五年前に不遇職業と定められても、それを補うほどの財力は保てている。

 食堂で使う食材は、従業員のメイリン・サザーシャークの実家……【サザーシャーク農園】で採れた野菜を使わせてもらっている。

 流石に肉や酒は王都で購入しているが、エドガーが買うと五割増しの料金だ。しかし、エドガー本人が買わないなど、気付かれさえしなければ、どうということはなかったのだ……。

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