Part6


 【召喚士】へ課せられた異常なまでの制限。

 エミリアの言うその縛りを、エドガーは笑って答える。


「ははっ、そこは気にならないよ。もう……慣れたし」


「……嘘じゃん」


 エミリアの台詞は小声だったので、エドガーには聞こえなかった。

 自分だけが、国から名指しで不遇職業と言いつけられ、不自由を強いられている。

 それでも笑顔で毎日を過ごし、不自由など感じていないかのように振る舞う。それがエミリアには、無理をしているように見えているのだろう。


「……ふぅ。さぁさ、アルメリアが戻ったら帰るんだろう?そろそろ良い時間だし、夜の森には明かりもないからね。送るよ」


 両膝をパンと叩き立ち上がり、エミリアに笑みを向ける。

 しかしその態度が、話題逸らしだともエミリアは気付いている。

 極力、エドガーは自分の話題を避けたがる。五年前に事件が起こり、その首謀者として晒し上げられ、国から迫害の身になった少年は。


「いいわよ、帰りは迎えが来るんだし」


「そっか」


 若干の不機嫌さを孕みつつも、エミリアとエドガーの会話は終わる。

 その後、ミルクまみれだったアルメリアがさっぱりした顔で大浴場から戻ってきて、エドガーが食事をする間、夜になるまで幼馴染としての楽しい会話をし、王都から迎えに来たメイドたちと帰る二人を、エドガーは笑顔で見送るのだった。




 そしてその日の夜。

 落ち着きを見せた【福音のマリス】のスタッフルームでは。


「はぁ。疲労。困憊」


「そうですね〜。今日も働きました〜」


 【従魔】である、名をウェンディーナとメジュアという女性が、ソファーで寛ぎながら会話をしていた。メジュアは豊満な胸を持つ女性で、おっとりとした雰囲気と、その頭部の角と耳・・・が目立つ。髪はセージグリーンで、細めた眼が特徴だ。

 縞模様の動物耳に短めの角。この世界での牛に似た動物らしいが、詳しくはエドガーもわからないらしい。彼女たちの情報は、召喚主のエドガーも計り知れないことが多く、流石は異世界から召喚されたと、謎だらけの彼女たちにエドガーは感心していた。


「――お疲れ様だ、三人共」


 エドガーがスタッフルームへやって来た。

 会話をしていた二人に、帳簿をつけていたホリィも、揃ってエドガーにこうべを垂れた。


「「「エドガー様!!」」」


 慌てる三体の使い魔を手で制し、エドガーは持ってきたトレーを机に乗せた。


「はい、今日の分の魔力補充だよ」


 それは、エドガーが溝浚どぶさらいで得た【魔具】……【輝石も流砂】のように光る物体だった。キラキラと煌めくその物体は、薬品で洗礼され、とある手法で凝固されている。差し詰め、それはもう砂ではなく……小石のような欠片だった。

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