Part4


 エドガーは自室に戻ると、網籠を慎重に置いた。

 中身はまぁまぁな量の【輝石の流砂】と、【バルムゥの羽根】。その他にも細かい【魔具】……人に言わせればゴミの山だった。


「さて、汚れも落としたし、僕はどうしようかな」


 立場上、宿の仕事を手伝うことはできない。宿の経営状況はともかく、エドガーのことは王都民には知られている周知の事実であるわけで、しかしエドガーの状況としては、この宿の居候と思われている節がある。

 メイリンが経営者と勘違いされているのは、エドガーにとっては大きな嬉しい誤算であり、利用させて貰っている立場にもある。

 そしてそのメイリンに恩義を返すために、かつて召喚した【従魔】のうち、三体を従業員として働かせている。しかしそれもまだ二ヶ月余り、彼女たちも頑張ってはいるが、習得ペースは遅かった。


(戦闘技能は素晴らしいんだけどね……)


 そう。使い魔である【従魔】は、全員が戦闘のエキスパート。

 十二体は全て元は魔物であり、エミリアが信じないように、おとぎ話の存在だ。エドガーの召喚は、この世界とは異なる場所から呼び出す力。召喚された【従魔】は、元々動物を模した魔物の姿で召喚され、そしてエドガーの魔力・・を帯びて人の姿となったのだ。


 ――コンコン――


「はい、開いているよ」


 新しいシャツに着掛けたエドガーは一旦動きを止めた。

 扉が開くと、そこには背の小さな少女が。先ほど振りの、幼馴染だ。


「あ、エド。おかえり……って着替え中だった!ご、ごめんね!」


「ただいまエミリア。ははっ、別にいいよ」


 メイリンからエドガーの帰りを聞いて、部屋に来たのだろう。エミリアは少し気恥ずかしそうにながらも、わざとらしい動きでウェイトレス服を見せてくる。


「そっか。ねぇエド、ど、どうかな……この格好、着て見たんだけど?」


 クルリと回転して見せて、「あたしの格好を見てー」と言わんばかりのアピールだった。


「よく似合っているよ」


「――いやこっち見て言って!?」


 シャツの上に上着を着ながら、心のこもらない言葉を投げたエドガー。

 エミリアはすかさずツッコんだが、エドガーは動じない。


「ごめんごめん」


「もう!」

(いっつもこうなんだから、たまには素直に褒めて欲しいのにっ)


 エミリアの方が年上ではあるが、身長はエドガーが少し上だ。

 低身長のエミリアと、成長途上の少年であるエドガー。

 平均よりは低いエドガーの身長だが、周囲の女性(使い魔)たちの多くは背が高い部類だ。そして【福音のマリス】周辺の仲間内でも、エミリアは低い身長でコンプレックスでもある。

 これだけ年上のお姉さんがアピールを続けているのに、思春期の少年にはかすりもしないのだから、純粋な少女も自信を無くすというものだ……。

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