Part6


 テーブルに置かれた野菜を取り分け、男たちは酒をガバガバと呑んでいく。

 気分もよくなり、口も饒舌に変わって行く。

 昼間から顔を赤くし、夜勤明けの男たちは豪快に笑う。


「わっはっは!!いやぁメイリンちゃんは流石だねぇ」

「本当だぜ、この宿の経営・・に食堂の管理、その上料理まで自ら作ってんだもんなぁ、うひょ~!」

「そのおかげで俺等が美味い飯と酒をいただけてんだもんな、感謝しかねぇぜ……なははははっ!!」


「あ、あはははは〜」


 男たちは上機嫌に笑っている。

 メイリンはあくまでも従業員だ。しかしその事実は歪められている。

 彼女のその苦笑いも、その方が良いと経営者……エドガーに言われているからだ。

 本当は今直ぐにでも否定したいメイリンだったが、既にそれは王都に知れ渡っている。その方が客も入るし、エドガーという不遇職業の少年が経営者だというよりも、効率が良いからだ。カモフラージュもされ、一石二鳥ということらしい、エドガーに言わせれば。


「――メイリン、配膳願う」


「あ、はーい!それじゃあ、ごゆっくりどうぞ」


 食堂の奥にある厨房から呼ばれて、メイリンは客に頭を下げて退散する。

 今日の客入りは上々で、席も半分以上が埋まっていた。

 そのうち、宿泊が三組七名、食事だけの客が十五名だった。

 つまり……忙しいわけだ。


「くっ、調理が……」


「が、頑張ってウェンディーナ。もうすぐエミリアちゃんが来てくれるから、そうしたらお手伝いを頼みましょう」


 厨房で泣き言を言っているのは、エドガーの使い魔の女性(の見た目)。

 名はウェンディーナといい、特徴的なのは普通の人より大きな丸耳と、長い茶の尾。雌黄色しおういろの金髪の女性は、エドガーの言うところの【従魔】だ。

 その耳は猿のような丸い耳、服の隙間から伸びる尾は髪と同じ色の直尾だ。普段は耳も人間と同じで、尾も綺麗に隠しているが、こうしてテンパると正体が若干現れる。これはエドガーの使い魔、【従魔】たち全ての特徴でもある。


「ウェンディーナならできるわ、うん、できるできる!」


 軽い言葉に聞こえるが、メイリンは本気で言っている。

 彼女はとても働き者であり、これくらいは苦ではないのだろう。

 しかしこのウェンディーナと、それともう二体はまだ新人である。こうして宿が忙しくなって、急遽従業員として働くことになった使い魔の三体は、まだ歴戦のメイリンの信頼を得るに至らない。他の面・・・では役立つ【従魔】だが、こういった日常では、実は一般人以下だったりする。


「くぅ、ホリィ、メジュア、帰還求む!」


 王都へ買い出しに行った【従魔】の同僚の名を叫び、ウェンディーナは必死に、野菜を炒める鍋を振るのだった。泣きながら……。

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